かわいい戦争
スマホの向こう側が静かということは、幸珀さんも察したのだろうか。
こちらの状況を。
『その車ならさっき見たよ』
あちらもスピーカーにしたのか、ずっと黙っていた幸珀さんの一言がクリアに届いた。
『ここに来る前に堂々と赤信号を突っ切ってる車がいたの。たぶん……てか絶対にその車だろうね。交通ルールガン無視してわたしを追い越してったからよく覚えてる。ムカついて途中まで競ってたもん』
「そこは競わないでください」
勇祐くんの冷静なツッコミに、こくこく頷く剛さんが頭に浮かぶ。
早速情報を入手できるなんて!
連絡を入れてみて正解だった。
「その車、どこ向かってました~?」
『西のほうに行ってたけど、目的地まではわかんないな。わたしが見かけたのは繁華街近くだったよ』
未來くんの質問に対する回答は曖昧で、手がかりにするにはいまひとつ。
西のほう、か……。
璃汰の家からあんまり離れてないのかな?
「わかりました。情報ありがとうございます。他にわかったことがあったらまた連絡……」
『ちょっと待ってろ』
電話を切ろうとしたら、剛さんに止められた。
何する気なんだろう。
カタカタと音がする。
パソコンを操作してる……?
『よし、出た』
「出たって何が……」
『この街の防犯カメラにアクセスしたんだよ』
「ああ、ハッキングすか」
剛さんの代わりに教えてくれた幸珀さんに、天兒さんが片方の口角だけ上げる。