かわいい戦争


スマホの向こう側が静かということは、幸珀さんも察したのだろうか。


こちらの状況を。



『その車ならさっき見たよ』



あちらもスピーカーにしたのか、ずっと黙っていた幸珀さんの一言がクリアに届いた。



『ここに来る前に堂々と赤信号を突っ切ってる車がいたの。たぶん……てか絶対にその車だろうね。交通ルールガン無視してわたしを追い越してったからよく覚えてる。ムカついて途中まで競ってたもん』


「そこは競わないでください」



勇祐くんの冷静なツッコミに、こくこく頷く剛さんが頭に浮かぶ。


早速情報を入手できるなんて!

連絡を入れてみて正解だった。



「その車、どこ向かってました~?」


『西のほうに行ってたけど、目的地まではわかんないな。わたしが見かけたのは繁華街近くだったよ』



未來くんの質問に対する回答は曖昧で、手がかりにするにはいまひとつ。


西のほう、か……。

璃汰の家からあんまり離れてないのかな?



「わかりました。情報ありがとうございます。他にわかったことがあったらまた連絡……」


『ちょっと待ってろ』



電話を切ろうとしたら、剛さんに止められた。


何する気なんだろう。


カタカタと音がする。

パソコンを操作してる……?




『よし、出た』


「出たって何が……」


『この街の防犯カメラにアクセスしたんだよ』


「ああ、ハッキングすか」




剛さんの代わりに教えてくれた幸珀さんに、天兒さんが片方の口角だけ上げる。

< 286 / 356 >

この作品をシェア

pagetop