かわいい戦争
「だから昨日も言ったじゃねーか。やり方が下手くそなんだよ。もっとうまく攫ってりゃ、またこんなめんどくせーことに巻き込まれなくて済んだのによ」
「だから昨日も言ったけど、説教するとこが違ぇだろって」
「寛大な俺が一度見逃してやったってのに、こいつ、昨日の今日で誘拐しようとしたんだぜ?難易度上げすぎだろ。バカじゃね?」
「俺の話、聞いてっか?……いちいち突っ込むポイントがずれてんだよなぁ。寛大とか、難易度とかさ。まあ、俺もこいつはバカだとは思うけど」
「だろ?」
「だろ、じゃねぇよ。都合いいとこだけ聞き取りやがって」
「俺が二度も見逃すとでも思ってんのかねぇ?」
「……だとしたら、こいつはとんだ大バカ者だな」
茶番まがいな空気が、低身長の男の子のため息をきっかけに、ガラリと豹変する。
「見逃すわけねーじゃねーか」
「……あーあ。昨日、忠告してやったのに。『自分の身、大事にしろよ』って」
4つの影が、嗤う。
透明な雨さえも、どす黒く汚して。
昨日も感じた殺気が、今日も心臓をえぐる。
ピリッと皮膚を直接伝う禍々しさは、恐怖を植え付けるだけ植え付けて、忘れさせてはくれない。
璃汰の震えはとうに止まっていた。
今度はストーカーのほうが戦慄してる。
「こいつぶっ殺していい感じ~?」
「ああ、いいぜ。どうやって再起不能にしてやろーか」
「あ、安心しろよ?命の保障だけはすっから」
「……皆、殺るつもりなら、僕はいいや」