かわいい戦争
か、会話がものすごく物騒だ……。
不良ってやっぱり怖い。
逃亡を試みた男性に、学ラン肩かけ男が足を引っかける。
「あ、ごっめーん。俺の足、長くてさ」
テキトーに、ゆるーく。
口先だけの言い訳は、何とも薄っぺらい。
絶対わざとだ。
「なに逃げようとしてんだよ」
「っうぐ、」
「こっからがおもしれーっつーのによー。俺の楽しみを潰す気か?」
次は高身長の男の子の足が、転倒した男性の胃のあたりを勢いよく踏んだ。
ぐりぐりと擦り、甚振る。
男性は殺気と苦痛で、もはや息もままならない。
「やっ、やめ、て……くれ……っ」
「え、なんで?」
真顔で聞き返す高身長の男の子は、ここにいる誰よりも冷徹で、残酷だった。
「なんで俺が、お前なんかに従わなきゃなんねぇの?」
「ひぃ……っ!」
悲鳴が、消える。
大きな足の圧が強まったせいだ。
「随分と自分に調子がいいんだな」
「それお前が言うか」
「こんな奴と一緒にすんじゃねぇよ。心外だな」
「お前だって自分に甘ぇじゃねぇか」
「ちげーよ。俺は自分に正直に生きてんだよ」
「物は言いようだな」
「ちょっとお2人さーん?」
身長に差のある男の子2人ののんきなお喋りに、半ば呆れたように学ラン肩かけ男が割り込んだ。
こんな状況でも平然と口喧嘩みたいなことできちゃうのって、逆にすごい。
あそこに躊躇なく入っていけるあの男の子も、すごい。