かわいい戦争



言いよどむ璃汰は、嫌そうに唇を尖らせる。


そんな顔してもだーめ。

かわいいだけだよ。



もう1回「ね?」と念を押すと、観念したように唇がゆるく曲がった。


右へ左へ泳いだ眼に、恐る恐る男の子4人を映す。



「……あ、ありがとう」



ボソボソと呟き、照れ臭そうにする姿が新鮮で。

今までの恐怖が全部吹っ飛んだ。



「わざわざ来てやったんだ。もっと感謝しろよ」


「……こうなるから言いたくなかったのに」



えらぶる高身長の男の子のせいで、その新鮮な姿が一瞬にして終わってしまった。


もう少し照れてるところ見たかったのにな。



なんてガッカリしていると。



「んん?」



不意にひとつの眼差しが、わたしを捕まえた。



「え?」


「お前さ」



漆黒の目。

高身長の男の子だ。



「さっきと顔違くね?」



すっかり緊張が解けて安心しきった心を、明後日の方向からぶん殴られたような衝撃が落雷した。



やばい。

やばい……!


今マスクしてないし、汗と雨でメイク取れてるし。



とにかくやばい!!



わたしの“かわいい”が溶けてなくなってしまった顔を、この男の子に見られてしまったら。


確実にバカにされて、からかわれる!!


< 57 / 356 >

この作品をシェア

pagetop