かわいい戦争



咄嗟に顔を覆い隠す。

しかし、両手首を鷲掴みにされ、作戦は失敗。


わたしの本当の素顔を、間近で凝視される。



「ふーん。お前、こんな顔してたのか」


「は、離……」


「ぶっさいくだな」



離して。
と、抵抗しようとしても、続きの言葉が出てこなかった。



辛いとか、悲しいとか、苦しいとか。

そういう感情じゃない。


わたしがブサイクなことは百も承知だし、昔から散々貶されてきた。


慣れたわけではないけれど、特に彼の場合、常に悪態をついているようなものだから別段傷つきはしない。



そうじゃなくて。

言葉を失ったのは、そういうことじゃなくて。



視界を埋める、目の前の男の子が、いやに不敵に笑っていたから。


まるで好みのおもちゃを見つけた子どものような、意地悪そうな表情。



「メイク落ちただけですげー変わるんだな。おもしれー」



すっぴんと、メイクした顔。

その落差を知っている人は、皆、口をそろえて言う。



――メイク詐欺。



騙してるつもりなんかない。


でも、確かにそうかもしれない。



わたしは“かわいい”を作ってるから。



量産型の“かわいい”は、本物の“かわいい”には敵わない。

どれだけ頑張っても、正義のまがい物になれるくらい。



それでもわたしは、“かわいい”を作り続ける。


そうしなきゃいけない。


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