かわいい戦争
「だ、だけど、璃汰は……?」
「あたしは無料タクシーで事務所まで行くわ」
「無料タクシーって俺らのことか?」
「他に誰がいるのよ」
「デスヨネ」
棒読みで返事をした低身長の男の子を横目に、璃汰はわたしの背中を押した。
「だからあなたは帰って。もう用済みよ」
ひどい言い草。
でも、知ってる。
高身長の男の子から、わたしを逃がしてくれるんでしょ?
「う、うん……じゃあ、またね璃汰。気をつけてね!」
璃汰の言葉に甘えて、雨水をたっぷり含んで重たくなったバックを抱えるように持ち、璃汰たちと別れた。
――パシャッ。
水たまりが、跳ねる。
――パシャッ。
スニーカーの中まで滲みていく。
――カシャッ。
雨音に同化した、シャッター音。
横断歩道のそばで、カメラを向ける人影がひとつ。
「……これは特ダネだ」
フィルムに写されたのは――。