かわいい戦争



食事制限、マッサージ、ランニング……。


他にも片っ端から試してみたけれど、一番長く続いたのは水泳だった。



「通いすぎて、髪の色素が薄くなっちゃったんだよね……」



それも今となればいい思い出だ。


ダイエットはこれからも続けていこう。

少しでも本物の“かわいい”に近づくために。



「……って、いけない!もう行かなくちゃ!!」



急いで髪を巻く。


昨日の雨にやられたスクバは、今日はお休み。

代用のリュックを背負って、



「いってきまーす!」



家を飛び出した。





作りたてのメイクが汗で台無しにならないよう、決して走らず、全力の早歩きで登校したら。


朝のホームルームの始まる5分前に、教室に着いた。



「よかった……ギリギリセーフ……」



無駄に疲れた。



「おはよ、海鈴ちゃん」


「走ってきたの?めっちゃ疲れてんじゃん」



同じ班で席の近い女の子2人は案じてくれたが、素直に明かすわけにもいかず、挨拶だけ返しておいた。


たぶんこの疲労感は、昨日のも含まれてるんだろうな。




「そういえばさ、リタちゃん今度ドラマ出るって知ってた!?」


「神雷の次はアイドル?」


「海鈴ちゃん見たら、なんか思い出しちゃって」


「今日もかわいいよね、海鈴ちゃん」


「あ、ありがとう……」


「照れなさんな」




照れてないよ、と意地を張れば「かわいいねぇ」と微笑まれた。


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