かわいい戦争
「そういうあんたこそ、彼氏いないの?」
「いないいない。あ、でも、憧れの人はいる!」
「だれだれ」
「この学校にいる、あの有名な不良の~」
「なんだ、そういう系ね」
「なんだとは何よー!」
こっそりクスッと笑うと、「あー海鈴ちゃんまでー!」と怒られてしまった。
あんまりかわいいから、つい。
恋バナに花を咲かせて盛り上がっていたら、言わずもがな掃除は捗らず、ゴミだけ適当に集めるだけ。
早々に掃除を終わらせた班の男子メンバーに叱られるまで、永遠と他愛ない話を続けていた。
おかげで掃除終了の時刻が、予想より大分遅くなった。
男子メンバーに申し訳ない。
面倒な当番が片付き、班の皆と別れる。
気づけば、辺りは一面茜色。
夕闇も迫ってきていた。
「急いでお弁当用の買い出しに行かなきゃ」
バタバタと急ぎ足で校舎を駆けていく。
通り過ぎる人たちの中には、同じ中学出身の人が何人かいた。
この北高校は地元の公立高校だし、当たり前か。
中学の途中までマスクをせず、素顔で生活していたわたしを知る人が、今のわたしを見てコソコソ陰口を叩く。
初めこそ嫌で嫌でたまらなくて、居心地が悪かったけれど、今となってみればどうってことない。逃げずに堂々としている。
どうせ皆、遠くから噂するだけで、実際に何かしてくることはないんだから。
わたしを使役する、あの子にためらって。