かわいい戦争
音楽がちょうどよく終わり、緊張感のある静寂が訪れる。
ドキ、ドキ、ドキ。
心臓の振れ幅が大きくて、痛くなってくる。
でも不思議と苦しくはない。
ゆらりゆらり、会場全体を右往左往していた照明が全て、正面ステージに集まった。
そこには、7つの影があった。
……来た。
キタ!
リタは?リタはどこ!?
センターの方向へ、視線を動かしていく。
「えっ」
が、ちょうどセンターのところに、前の観客の頭が。
み、見えない!!
前のお客さん、身長高すぎ!
今日ほど自分の身長を呪った日はない。
160はあるけど、見えなきゃ意味がない。
せっかくいい席なのにぃ……。
諦めきれなくて、ぴょんぴょん跳ねてみるけれど、太刀打ちできない。
それにジャンプしたら、後ろの人が迷惑しちゃうし。
ショックでため息を吐きそうになったわたしの肩を、急に誰かが掴んだ。
「っ!?」
そのままその“誰か”と場所が入れ替わる。
「そこからなら、璃汰ちゃんのことよく見えるでしょ?」
肩に触れていた手が、ポンポンと2回弾んだ。
反射的に隣を見てみれば、未來くんの優しい表情がすぐ近くにあって、思わず身構えてしまう。
「あ、あり……」
わたしから手が離れると同時に、1曲目が奏で始めた。
大音量の曲と歓声に、わたしの呟きはかき消される。