belief is all 『信念がすべてさ』
列車は真暗闇の中、東へ上って行った。一人真っ暗なガラス窓の外を眺めていると、そこに写るのは幼い日の自分自身だった‥。
そいつは明るくなるまで俺の話につき合ってくれた。
俺が生まれた時、親父は二十三歳、お袋は十九歳、若い結婚だ。物心つく頃に父は極道者になっており、何時も服役していて家族は一緒に居れなかった。子供の俺は当然何も知らず、
「お父さんはどこにいるの?」
「遠くへ出張に行っている‥」
と教えられていた。
お袋は料亭に住み込みで仲居のような仕事をしていた。俺はそこから幼稚園に通った。たった五歳の俺は一人で食堂に入るし、銭湯にも行くし、映画も一人で観に行けた。電車もバスも何でも一人で大丈夫。しっかりした子に育つと言うより、どんどんませていったように想える。
幼稚園のない日は金網製の鼠取りに掛かった鼠を近くのドブ川で水死させ、捨ててくる仕事を言いつけられた。
ある日、お袋に妙に遠い所へ連れられて、高い頑丈な塀のある建物の中に入った。ベンチが並んだ部屋に俺は座り、受付の様な事を済ませているお袋を待っていた。戻った彼女は
「ここでしばらく待っていなさい」
そう言って部屋を出て行った。
長い長い時間が過ぎ、さっぱり待ちくたびれた俺は廊下に出てみた。その廊下には引き戸になった扉が幾つも並んでいて、向こうの方までずっとそれが続いていた。探偵気分の俺はその部屋を一つずつこっそり覗いていった。夏だったせいか引き戸はみな開いており、中の様子は直ぐに垣間見る事ができた。人がいる部屋もあれば、空の部屋もあった。そして幾つ目かの部屋を覗いた時、手前にお袋の後ろ姿が見え、金網で仕切られたその向こうに親父が見えた。俺は急いでベンチの部屋に戻った。
いけない物を見てしまった気がした。
そいつは明るくなるまで俺の話につき合ってくれた。
俺が生まれた時、親父は二十三歳、お袋は十九歳、若い結婚だ。物心つく頃に父は極道者になっており、何時も服役していて家族は一緒に居れなかった。子供の俺は当然何も知らず、
「お父さんはどこにいるの?」
「遠くへ出張に行っている‥」
と教えられていた。
お袋は料亭に住み込みで仲居のような仕事をしていた。俺はそこから幼稚園に通った。たった五歳の俺は一人で食堂に入るし、銭湯にも行くし、映画も一人で観に行けた。電車もバスも何でも一人で大丈夫。しっかりした子に育つと言うより、どんどんませていったように想える。
幼稚園のない日は金網製の鼠取りに掛かった鼠を近くのドブ川で水死させ、捨ててくる仕事を言いつけられた。
ある日、お袋に妙に遠い所へ連れられて、高い頑丈な塀のある建物の中に入った。ベンチが並んだ部屋に俺は座り、受付の様な事を済ませているお袋を待っていた。戻った彼女は
「ここでしばらく待っていなさい」
そう言って部屋を出て行った。
長い長い時間が過ぎ、さっぱり待ちくたびれた俺は廊下に出てみた。その廊下には引き戸になった扉が幾つも並んでいて、向こうの方までずっとそれが続いていた。探偵気分の俺はその部屋を一つずつこっそり覗いていった。夏だったせいか引き戸はみな開いており、中の様子は直ぐに垣間見る事ができた。人がいる部屋もあれば、空の部屋もあった。そして幾つ目かの部屋を覗いた時、手前にお袋の後ろ姿が見え、金網で仕切られたその向こうに親父が見えた。俺は急いでベンチの部屋に戻った。
いけない物を見てしまった気がした。