belief is all 『信念がすべてさ』
「さっきのお父さんでしょ、見たらお母さん、お父さんとしゃべってた」
「ううん違うよ、あれはお医者さんだよ」

 お袋は病院だと言って誤魔化したようだった。後から聞いたら刑務官に
「会わさないほうがいい」
と言われたらしい。お袋もギョッとしただろう、可哀想に想う。

 七歳のある日、お袋がいなくなる。
 習い事をしていた俺を彼女は何か妙に変な様子で車に乗せて送って行きたがった。子供心に嫌な雰囲気なので断るが「どうしても」と言って車に乗せられた。途中で食事をしようと誘われ、それも嫌々つき合った。
 涙目で俺の顔をじっと見ていた。
「良い子になるのよ‥」
そればかりを繰り返していた‥‥。
(ほら始まった、だから何か嫌だったんだ)
俺は普段と完全に違う雰囲気をとても居心地悪く感じていた。
 そして彼女はその日以降戻っては来なかった。

 お袋の事は
「悪い女だから忘れろ」
通学途中にあった母方の
「お祖母ちゃんの家にももう行くな」
そう命じられ、俺は只それに従順に従うしかなかった。
 亭主がヤクザ者になってしまった末娘の子供で、俺は特に心配され可愛がって貰ったようだ。その日を境に一切訪ねて来なくなった俺を祖母は下校時間に道路際でよく待っていた。見ないように早足で帰ろうとする俺を呼ぶ祖母さんの声が毎日のように辛かった。

 子供にいったい何をさせるんだ。

 まだ二十二~二十三歳の派手な女がある日、ニコニコしながら俺の前に現れた。
「今日からお前のお母さんだ」
 しかしそのわずか後、親父はシャバにはいなくなる。
 一人で暮しているなら待ってもいれようが、小学生のガキをあてがわれた上がんじがらめにされていたのだろう、そのうっぷんからか俺は事ある毎に張り倒されていた。

 学校で服を汚して帰る度。
 鞄に傷をつけてしまう度。
 蹴ったボールで窓ガラスにひびを入れる度。
 乗って出た自転車をパンクさせる度‥‥‥ 。

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