belief is all 『信念がすべてさ』
 その町でもお袋はスナックをやっていたが、商売もそこそこで小綺麗な彼女は町で名の通ったホステスだったようだ。余り金を貯めておくといったそう云う性分ではないらしく、白いスポーツカーを愛車にし、マンションのベランダからその車を食い入るように見ている子供達がよく見えていた。コーヒー好きで、よく喫茶店に誘われると決まってキリマンジャロをストレートで飲み、俺にも同じものを同じ飲み方で飲むように指導した。
 ここでも夜は一人きり。与えられたペット達、ハムスターやハツカネズミ、金魚や小鳥や小犬達と過ごした。
 そんなある日お袋にも男が出来たようで、一緒に暮すため店を畳み彼の居る都会へ移り住むため俺も連れられて行った。全然知らない男を含めた三人で暮す事はもう中学に上がろうかという歳の子供にとって大きなプレッシャーがあった。
 しかし選ぶのは母親だ。子供の俺に相談される事も無くそれをそのまま、なすがままに受入れるしかなかった。

 しかしお袋の内縁の夫婦関係は案外早く終末を迎え、俺は又お袋に連れられて元いた港町へ流れ戻った。三度目の転校になる。

 俺もお袋も二度目となるその町で親子細々と暮す事になる。最初に着いた時は住む場所も無く金も全然無かったのだろう、知り合いのつてで貸してもらった倉庫の様な一室に布団だけ敷いて暮らした。やがてアパートに移り住む事が出来、雇われママになったお袋のホステス収入が安定していくにつれ少しずつましな部屋に移れるようになった。

 そして一年がたった中三の夏休みに煙草やシンナー遊びを覚え、夜遅くまで俺一人でいたアパートの部屋は田舎町の不良連中の格好の溜まり場となった。四六時中部屋がシンナー臭くなっていった頃だ。
 悪い遊びも何も凝りだすと徹底的にやってしまう性分で、シンナーの影響で見えたり聞こえたりする『幻覚』『幻聴』を極めてみたいと云う気持ちになり、その頃俺は年に三百日くらい、三号のビニール袋に入れたシンナーを吸って恍惚としていた。あの頃の仲間にはラリったままになったり、死んじまったのもいるのに、よくあんな状態で命があるものだ。
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