belief is all 『信念がすべてさ』
 自分自身が全くの未熟者で、俺一人対他全員と云った分裂もしばしば。オーナーから
「どちらが正しいのか解かっているのだが、君を切るか他を全員切るかの選択になってしまった‥‥」
そう言った理由で不本意ながら幾つかのバーを立ち去らなければならなかった。
 オープン時間を守らず、フラリと口開けの店に見えたお客様は未だ照明も落ちていない明るいままの店内を見て不安そうに
「まだ早かったですか?」
と、ドアの所で立っていらっしゃる。余りに情けなく、チーフの俺は
「非常に恥ずかしい事だっ!」
と注意したことがある。
 その日の閉店後俺は呼び出され「気に入らない」と、こてんぱんに殴られた。心の中で、(殴り返さない勇気、殴り返さない勇気‥‥)
そう唱えながら一切の反撃をせず耐えた。
 顔に青丹作って、次の日お客様に
「喧嘩でもしたのか?」
と、訊かれるのが辛かった。バーテンダーはそもそも不良がやっている職業に見られがち。いい不良だった俺もそう見られないよう、立派な仕事として理解して貰えるよう出来る限りの努力をしていた。
(殴られたの丸出しの顔で何でカクテルが作れるか)
(優雅な雰囲気を演出していかなければならないのに興醒めしちゃうんだよ)
 チーフでなく、店長職に就いていれば幾らかすんなり納まる事もあっただろう。
「店長に」
と言う話は色々な店で多かったが、店長やマネジャーになるとレジ管理が中心の仕事になる。カクテルに接していたかった俺は給料面でも不利なカウンター勤務をいつも希望した。
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