belief is all 『信念がすべてさ』

　時を同じくして、ある大きなレストラン・バーから『店長に』と言う引き抜きの話がやって来た。以前面接を受けた事のある処で、その時俺は「採用してくれる」と言う話だったものをそこよりはるかに条件の悪い『池袋』の店舗を選び、その好条件を不意にして池袋の土地にこだわった。しかし又もや浪人の身になっていると噂を聞き付けて、俺自身は面識の無かった『会長』肩書きの初老の経営者が俺の事を偵察に二度ほどハンバーガー・ショップに来ていた。
　一度目は深夜、閉店後の清掃メンテナンス中を見ていたと言う。
「二階の客室を一人で清掃しているのが道路越しに見えたので暫く掃除の様子を観ていましたが、テキパキと大変楽しそうに掃除をする人だなと思いました」
（こわー、嬉しいけど‥）
　二度目に来ていたのはスタッフが全然足りない日に、よりによって大混雑し注文カウンターに長い列が出来ていた時だ。
「オーダーを早く出せるように注文された商品をグループ毎にまとめて作っていき、直ぐ近所のお客様だったらオーダーだけを聞いて配達する事にし、そのお客様には配達先で待たせるようにしていた‥。判断力がある」
そのお客様には配達先で待たせるようにしていた‥。判断力がある」
（よく観てるなー、怖いけど‥）
そんな事で気に入られ、
「是非店長で」
と言う本当に有り難い誘いがあり、給料も今迄貰った事もない額が提示されたのだが、
（池袋で出来るのならこの街で独立したい‥）
その思いは強かった。

　何度となく粘って、やっと必要と算出した額の半分を借入れする事に成功する。
（運営費が全く出ないな‥）
要は最初に利益が少ないとそれはそのまま生活費が無いと云う事になる。無謀だが他に道は無かった。

『私の様な馬の骨に目を掛けて頂き、入社のお誘い心より嬉しく思いました。が、今回自分の本拠地である池袋で自営の出来る話が何とか形になりそうな運びで、そちらの方でやって行くと決断する事に致しました‥‥』
丁重に断りの手紙を書いた。