belief is all 『信念がすべてさ』
 バーと云う業態は定着するまでに時間のかかる、利益が出て顧客が安定するまでの辛抱が長い世界で、パチンコ店やキャバレークラブの様に新規開店でパーッと派手に集客して利益を出すと言うより、地道にゆっくりと、お客様とも長くお付き合いしていくと云ったものだ。
(このお客様とはもしかしたらもう二度と会えないのかも知れない‥その心で接するのが極意だろ。笑顔と優しい気持ちを心掛けるのさ)
俺は景気の悪さから色々なことを学んだ、そしてそれは今も続いている‥‥。
 バー業務と云うものはあの手この手を尽くしてアイデアを織込んでやっていくと云うより、いつも変わらぬ形態、時間が止まったように同じ事を繰り返していく、社会風潮に余り左右されず同じ様に存在しているのが美しく、その都度その都度でやり方が変わっていたのではどうか‥。
 と言う事は、一度これで行こうと決めたらそれをずっとやり続けなければならない世界なのだと思う。
 俺は毎日同じ様にカウンターに立ち続けた。
 毎日様々なお客様がやって来て色々な人に出会う。これで正しいのかと自問自答しながら、来る日も来る日も同じ様に小さなグラスに酒を注ぎ続ける‥‥。


 そして、コンペティションに賭けた情熱は年を重ねるとも尽きず、1997年に仙台市で行なわれた全国決勝大会の競技舞台に俺は立っていた。三度目の全国大会だ。
 その年、自分に直接アドバイスをくれる師や先輩の無さを埋める為、様々な所へ出向き「教えて下さい」と、喰らいついていった。
 自分自身に課した大きなプレッシャーに押し潰されそうになりながら、緊張の嵐の中。
 丸一日を懸けた競技を終了し、燃え尽きたような空白の中。
 俺は全国から選抜された良きライバル達と集計結果の発表を待っていた。

 審査発表

 フルーツ・カッティング部門。俺の名は無い‥。
 課題カクテル部門。初出場でメダルを取った部門だ。俺の名は‥無い‥‥。
 創作カクテル部門。一番タイトルを目指していたオリジナル・カクテルの評価。
 二位まで俺の名は呼ばれない‥
(これで今年も終わるのか‥‥)
俺は泣きそうになっていた‥‥。

 司会者の声

「創作部門第一位、ゼッケン十四番、関東本部、池袋支部代表、大伴 忍選手」
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