愛されプリンス½



右腕は私の背中、そしてもう片方の腕は私の後頭部にまわし、ギュ、と力をこめる天王子。

体と体が密着して、1ミリの隙間だってないくらい。


ほんとは、こんなところすぐにだって抜け出したいのに。



あまい匂いがする。



天王子の腕の中は、こんな最低最悪な男だというのに、あたたかくて、甘くて、まるで危険な薬物みたいだと思った。



「……うっとりしてんなよ」



暫くして、私から体を離した天王子がニヤリと笑う。



「べっ別に…うっとりなんてしてないし!」

「嘘つけ。抱きしめられた途端急に大人しくなったくせに」

「そっそれは…だって、あんたが無駄にいい匂いするから!」



なんだか物凄く恥ずかしい。顔が熱い。


目を逸らしながら言うと、なぜか黙りこくった天王子。


てっきり間髪いれず何か言い返してくると思ったのに。



「天の…ぶっ」



恐る恐る顔を上げようとしたら、その前に天王子の腕が伸びてきて、ガシッと乱暴に顎をつかまれた。

ぶちゅ、と潰される頬。


そう、俗に言うタコチュー状態。



「なっなにふるっ…!」


天王子は物凄くマヌケな顔になっているであろう私を見ても笑いもせず、感情の読み取れない表情でまじまじと見つめた。


「てんのー…じ?」


「……なんなのお前。調子狂うわ」


「はっ…いでっ」


そんなわけ分からないことを呟いたかと思えば、バシッとデコピンされる。同時にタコチュー状態からも解放された。



「ちょっ…いっった!!今思い切りしたでしょ!?」


「じゃーまた明日な、タコ女」


「タコッ…」



言い返す間すら与えられず、バタンと閉まるドアの向こうに消えた天王子。



って…


また明日もくるのかよぉぉ!?







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