坂の多いまち
 あくる日、つまり5月の最終月曜日が、いきなりAUTの入校日という強行スケジュールだった。夏と冬の日照時間に大きな差のあるこの国のこの時期、朝の7時はまだ真っ暗と言ってよかった。市の中心から遠いこの家から約1.5キロ先のバス停からバスに乗り、地図でおおよそ見当をつけたあたりで降りた。そのころにはあたりも明るくなっていたが、自分がどこにいるのかまだわからないでいた。このとき初めて、オークランドの坂の多さに気がついた。地図上で環状になっているはずの道路が、坂のせいで複雑にカーブして見え、どこに続く道なのかさっぱりわからなくしていた。どうやら大きな公園らしく、目指すAUTもすぐ近いはずだった。歩いている人といえば、朝帰りらしい大柄なマオリ(ニュージーランド先住民族)系の男性くらいで、さすがの私も声をかけられずにいた。すると、ランニングに短パン姿でジョギングをしているアジア系の男性が近づいてきた。眼鏡をかけ、日本人とも似ているようだが、全く違うような気もした。そして、「キャナイヘルプユー?」まるでカタカナ英語のような、ある意味私でもわかりやすい英語で話しかけてきた。突然のことで、うまく声も出せないでいる私は、日本語で書かれた地図を彼に見せた。自分は韓国人だから日本語はわからないけど、というようなことを言いながらしばらく顔をしかめていたが、納得したように、「That way」と指を指したのを見て、お礼を言って教えられた方向へ歩いていった。短い下り坂のあと、また上り坂を越え、大通りに出た。
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