初恋は水中の彼
「じゃあ、もしご褒美がもらえるとしたら何が欲しい?」
杏奈はしばらく考える
「ん~あまりこれといって欲しい物っていうのがないんだよね」
「杏奈には欲がないんだな(笑)、俺は昔進級の度に自販機のアイスが食べたくて進級テストを頑張ったな~」
「そうだったの?それなら物じゃなくて、あたしどこか出掛けてみたい、お母さんは平日が休みだし、お父さんも小さい時は単身赴任で家にいなかったし、あまりどこかへ遊びに行った記憶があまりない……」
「じゃあ、今度の大会でタイム更新したらどこか行こうか?」
「本当に?嬉しい」
杏奈は本当に嬉しそうに笑った
自営業ってのは大変だな、杏奈も真面目に泳いできたから、遊びのメリハリがないのか……友達とも遊びに行ってないみたいだし、当然恋もしたことないんだろうな
杏奈は初めてのご褒美に練習を頑張っていた
そして大会一週間前、杏奈は泳いでるとふくらはぎに違和感を感じプールから上がった
「すみません、ちょっとつりそうなので休憩します」
先輩が集まってくる
「大丈夫?」
「はい」
「マットもってきて」
部長がストレッチをしてくれた
ふくらはぎをゆっくり伸ばして筋を伸ばす
杏奈は痛くて顔をしかめる
「おい、女子のほうマット出てる……故障者かな」
「杏奈ちゃんじゃね?」
譲は女子の方を見た
杏奈だ……女子のほうに駆け寄る
「杏奈どうした?」
「つりそうだったから上がったの、大丈夫よ」
「杏奈、ちょっとオーバーワーク気味ね三日間泳ぐの止めて自宅で休みなさい、しっかり治さないと」
「でも大会が……」
「大会だからよ、違和感あったら大会でつるわ、いいわね」
「はい」
杏奈は視線を落とした
「送っていくから待ってろよ、わかったな」
「うん」
杏奈はロッカーにびっこをひきながら歩いていく
ロッカーで一人でいると涙が出てきた
せっかく頑張ってきたのに……
杏奈は建物を出て外のベンチに座って譲の練習の終わるのをぼーっと待っていた
部活が終わり次々と先輩達が出てくる
杏奈は立ち上がって、先輩達に挨拶をする
「お疲れ様でした」
「ゆっくり休みなよ~」
優しい言葉をみんなにかけてもらえる……また涙がこぼれてくる
「じゃあ、杏奈を送っていくから先に出るな」
譲は急いで着替えてロッカーを後にした
「あいつらってまだつきあってないよな」
「譲が前のことがあるから進めないんじゃねーの」
高校の時を知る友達は譲の心配もしていた
元カノと杏奈ちゃんは違うのにな、などとしばらくロッカーで話していた
「杏奈、お待たせ」
杏奈は後ろから声を掛けられてビクッとなり手で顔をふいた
(泣いてたな……)
譲は杏奈の隣に座る