OMUKAE☆DATE♪
プロローグ·姉の危機。
部活に入ってない、帰宅部学生でも朝は早い。
身支度をして部屋を出ると、廊下に満ちる朝食の匂い。
今日はパンでなくごはんだ。鮭の塩焼き。
爽やかに食卓に着席すべく、キッチンに入ると、姉と母がにらみ合いケンカをしていた。
……何で?
姉はバシッとスーツ姿。そういえば、最近こういう姉のスタイルは見ていなかった。
「おはよ……」
会話?が途切れた頃合いを見て言う。
二人は硬い表情のまま、同時にこちらを見た。
「おはよ……」
虚ろな感じで返事が返ってきた。
……恐い。
「お姉ちゃんいつ来たの?」
「いま、さっき」
憮然として姉が答える。
「あれ?仕事は?復帰したんじゃなかったっけ?今日、休み?」
「今から行く」
眉間にシワ。
母は苦い顔をして、
「だから辞めれば、っていったのよお。大変なんだから、いつかこんな風になると思ってたのよ」
また空気がささくれた。
「辞めないわよ!やりたかった仕事だもん。何とか復帰にこぎ着けたのに!今言わないでよ。……お願いだから協力してよ。絶対、辞めない」
やや涙目の姉。
「あの……、何があったんですか?お姉様、何故にそのようにお怒りで?」
今度は母が怒りだした。
「そーよ!何であなたが私に怒らなきゃいけないのよ‼あなたの子でしょ?自分で何とかしなさいよ」
「……お祖母ちゃんでしょ……」
姉がつぶやく。
「ああっ、イヤっ。今、その響き。ずるいっ」
耳を両手でふさぐ母。
ーーどうも、こういう事らしい。
姉は、三年前に結婚した。
相手は近所に住んでいた、まあ、幼馴染みと言ってもいいだろう。
学生時代は何かと、その彼と一緒に行動する事が多かったみたいだ。
そこから、大学で同じサークルに入り、(この辺、色々あった様だが詳しくは知らない)
彼は卒業後、イベント運営の会社に立ち上げスタッフとして就職し、落ち着いた頃、社員として姉を呼んだ。
ホント、仲のよろしいこって。
姉はよく夫を支え、仕事仲間や後輩にもしたわれ、職場に無くてはならない存在に……なった時分に妊娠が発覚。
そのとき企画中だったイベントを泣く泣く離脱して産休に入った。
その後、可愛らしい女の子を出産。
首が据わるのを待って、仕事に復帰した。
ベビーシッターを雇う事も考えたが、乳幼児から預かってくれる保育園を探した。
運よく思いのほか近くにいい保育園が在ったのでそこに預ける事にしたのだった。
「保育園が改築工事をすることになったわけよ」
母が言った。
「赤ちゃんは大きな音に怯えるでしょ?作業服の大柄な男の人も大勢出入りするし。三歳以下の幼児は工事の期間中、6時頃には帰ってくださいって」
姉が落ち込んだ声でさらに説明した。
何で?何が不都合?
「ちょうどいい時間じゃないの?」
「企画中の野外ステージも設営に入ったの。現場は大体、透さんが見てくれるからいいんだけど」
出演者の皆さんとの細かい打合せが残っているという。
相手の都合に合わせると、どうしても時間が押してしまうのだ。
「ふっ。この世の華を謳歌している訳ね……」
と、……母。
お母さん……有名人や文化人に多く接するお姉ちゃんのこと、……ひょっとしてやっかんでる?
「延長!延長プリーズ‼ワガママ聞いてくれる園だったのに!」
――叫ぶ姉。
母も叫ぶ。
「私だって忙しいのよ!新作が大ヒットして、追加注文の用紙が宙に舞ってる状態なんだから。セレブなお客様も多いんだからね!」
――何だか微妙に姉と張り合う。
まあ、ケーキ屋さんの通信販売では、いくら有名人が購入者でもご本人には会いませんねえ~。
しかも母は責任者とはいえ、企画や商品開発部でもない。
「そのセレブにCMに出演してもらったらいいのに。もっと売れてバイトくん増やせるかも」
この私の一言に母は鋭く反応した。
「居たわ……」
「え?」
「部活も入ってなくて、ヒマで、バイト代ちょっと払えば言うこと聞きそうなヤツ」
「え……?」
「将来的な修行をさせるのにぴったりなヤツ」
「え~!」
「香織。緊急命令よ。今日から二週間、日曜日以外は保育園までユリちゃんを迎えに行く事」
でっ、でたっ‼母の上司ノリ緊急命令。
これに逆らえる者はこのウチには居ない。
けど。
「え~ヤダ~」
「抵抗してもムダ」
そして姉を振り返り言う。
「いいわね、そういう事で」
……お母さん、かっこ良すぎ。
って!
私、むっちゃ犠牲になってるし‼
私、ユリちゃん苦手だし!
よく泣くし、幼児のくせに既に何だかませた感じのワガママぶりだし……!
絶対なつかないって!
「あの、あ……」
それらの不安を、もうちょっと柔らかい表現で言おうとして姉の方を見ると、すでにウルウルと眼をうるませながら、
「ありがとう。ホント助かる。バイト代弾むわ。イベント成功後の打ち上げの時にはお土産も持って帰るから!」
語尾に大きなハートマークが見える……。
ダメだこりゃ、逃げられまい。
この状況から言うと……。
「じゃっ、今日からよろしくね」
腰に手で威張りポーズの母が言う。
「――はあ?」
ウソお。
身支度をして部屋を出ると、廊下に満ちる朝食の匂い。
今日はパンでなくごはんだ。鮭の塩焼き。
爽やかに食卓に着席すべく、キッチンに入ると、姉と母がにらみ合いケンカをしていた。
……何で?
姉はバシッとスーツ姿。そういえば、最近こういう姉のスタイルは見ていなかった。
「おはよ……」
会話?が途切れた頃合いを見て言う。
二人は硬い表情のまま、同時にこちらを見た。
「おはよ……」
虚ろな感じで返事が返ってきた。
……恐い。
「お姉ちゃんいつ来たの?」
「いま、さっき」
憮然として姉が答える。
「あれ?仕事は?復帰したんじゃなかったっけ?今日、休み?」
「今から行く」
眉間にシワ。
母は苦い顔をして、
「だから辞めれば、っていったのよお。大変なんだから、いつかこんな風になると思ってたのよ」
また空気がささくれた。
「辞めないわよ!やりたかった仕事だもん。何とか復帰にこぎ着けたのに!今言わないでよ。……お願いだから協力してよ。絶対、辞めない」
やや涙目の姉。
「あの……、何があったんですか?お姉様、何故にそのようにお怒りで?」
今度は母が怒りだした。
「そーよ!何であなたが私に怒らなきゃいけないのよ‼あなたの子でしょ?自分で何とかしなさいよ」
「……お祖母ちゃんでしょ……」
姉がつぶやく。
「ああっ、イヤっ。今、その響き。ずるいっ」
耳を両手でふさぐ母。
ーーどうも、こういう事らしい。
姉は、三年前に結婚した。
相手は近所に住んでいた、まあ、幼馴染みと言ってもいいだろう。
学生時代は何かと、その彼と一緒に行動する事が多かったみたいだ。
そこから、大学で同じサークルに入り、(この辺、色々あった様だが詳しくは知らない)
彼は卒業後、イベント運営の会社に立ち上げスタッフとして就職し、落ち着いた頃、社員として姉を呼んだ。
ホント、仲のよろしいこって。
姉はよく夫を支え、仕事仲間や後輩にもしたわれ、職場に無くてはならない存在に……なった時分に妊娠が発覚。
そのとき企画中だったイベントを泣く泣く離脱して産休に入った。
その後、可愛らしい女の子を出産。
首が据わるのを待って、仕事に復帰した。
ベビーシッターを雇う事も考えたが、乳幼児から預かってくれる保育園を探した。
運よく思いのほか近くにいい保育園が在ったのでそこに預ける事にしたのだった。
「保育園が改築工事をすることになったわけよ」
母が言った。
「赤ちゃんは大きな音に怯えるでしょ?作業服の大柄な男の人も大勢出入りするし。三歳以下の幼児は工事の期間中、6時頃には帰ってくださいって」
姉が落ち込んだ声でさらに説明した。
何で?何が不都合?
「ちょうどいい時間じゃないの?」
「企画中の野外ステージも設営に入ったの。現場は大体、透さんが見てくれるからいいんだけど」
出演者の皆さんとの細かい打合せが残っているという。
相手の都合に合わせると、どうしても時間が押してしまうのだ。
「ふっ。この世の華を謳歌している訳ね……」
と、……母。
お母さん……有名人や文化人に多く接するお姉ちゃんのこと、……ひょっとしてやっかんでる?
「延長!延長プリーズ‼ワガママ聞いてくれる園だったのに!」
――叫ぶ姉。
母も叫ぶ。
「私だって忙しいのよ!新作が大ヒットして、追加注文の用紙が宙に舞ってる状態なんだから。セレブなお客様も多いんだからね!」
――何だか微妙に姉と張り合う。
まあ、ケーキ屋さんの通信販売では、いくら有名人が購入者でもご本人には会いませんねえ~。
しかも母は責任者とはいえ、企画や商品開発部でもない。
「そのセレブにCMに出演してもらったらいいのに。もっと売れてバイトくん増やせるかも」
この私の一言に母は鋭く反応した。
「居たわ……」
「え?」
「部活も入ってなくて、ヒマで、バイト代ちょっと払えば言うこと聞きそうなヤツ」
「え……?」
「将来的な修行をさせるのにぴったりなヤツ」
「え~!」
「香織。緊急命令よ。今日から二週間、日曜日以外は保育園までユリちゃんを迎えに行く事」
でっ、でたっ‼母の上司ノリ緊急命令。
これに逆らえる者はこのウチには居ない。
けど。
「え~ヤダ~」
「抵抗してもムダ」
そして姉を振り返り言う。
「いいわね、そういう事で」
……お母さん、かっこ良すぎ。
って!
私、むっちゃ犠牲になってるし‼
私、ユリちゃん苦手だし!
よく泣くし、幼児のくせに既に何だかませた感じのワガママぶりだし……!
絶対なつかないって!
「あの、あ……」
それらの不安を、もうちょっと柔らかい表現で言おうとして姉の方を見ると、すでにウルウルと眼をうるませながら、
「ありがとう。ホント助かる。バイト代弾むわ。イベント成功後の打ち上げの時にはお土産も持って帰るから!」
語尾に大きなハートマークが見える……。
ダメだこりゃ、逃げられまい。
この状況から言うと……。
「じゃっ、今日からよろしくね」
腰に手で威張りポーズの母が言う。
「――はあ?」
ウソお。
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