OMUKAE☆DATE♪
「……で、反抗心をくじかれて、魂の抜けた状態で両親がねじ込んだ会社に就職したのよね。

最初はいた仕方なし!って感じで仕事していたんだけど。

よく考えたらお給料が良い訳じゃない?

がっつり稼いでとっとと辞めて声優学校!ってすごく頑張ったの。

データの打ち込みも、コピー取って会議の書類作成も、お茶くみも、掃除も、鉢植えの手入れと水やりも。

他部門の社員にも、清掃のおばちゃんにも爽やかに挨拶して、お客さまには当然、神対応。

……今思うとかなり無理してたわね。
あのままだったら多分、燃え尽きてたかも。

そんな時にこのお店に間違えて入って、この子、『可憐ちゃん』に出逢って。

学校に行くために貯めているんだから使わない‼って決めてたお金払って連れて帰っちゃった」

「そうそう、『可憐ちゃん』を見据えたままずうーっと小声で何か呟いてた。

そして急に、
『この子、売約済みの札付けて‼』って」

タクニイさんが思い出したように言う。

夕美さんが手をひらひらさせながら、

「もう、昼休みに銀行へダッシュよ。
仕事中、気が気じゃなかったわ。

もし、どうしても欲しいって人がもう一人現れて、お店に行ったら
『相談して下さい』なんて言われたらどうしよう。
とか、……変な想像して」
そう言って笑った。


「可憐ちゃんを連れて家に帰って
『あ~っ、やってしまった~』ってしばらく落ち込んでたけど……。

お気にいりのテーブルの上に座らせたらテンション上がっちゃって。

なんだか部屋がぐっと上品になった気がする。

それから冷静になったのか、仕事で無理はしなくなったの。

会社から帰ってきたらまずお洋服作り。

最初に着てた服が、ちょーっと地味だったから。
お人形遊びなんて何年ぶりだったかしら。

そのうち二人?だけのときは話しかけるようになったの。

……あぶない人みたい?
夢に破れて疲れてたのかも。

いつの間にか話しかけて自分で答えるようになったの。
『可憐ちゃんだったらこう言うなー』って。
声音も色々試して、録音してみたり……。

両親ともやや険悪だったのが、家に帰ったらそんな楽しみが(秘かにだけど)あるわけじゃない?

ごきげんに過ごしてたらケンカする事も全くなくなったの。

父は良い会社に入れたからだ、って思っていたみたい。

自分の部屋でお人形と会話してストレス解消していたとか知られてたら、

……即、診療内科だったかも。

そうして過ごすうちに……、

ある時会社の飲み会に誘われたのね。
……飲み会というより宴会に近いかな。

『社長も来るから、なにか芸事用意してきて!』
っていうお達しで。

えー、それほとんど仕事じゃない……。

歌には自信あったし、モノマネとかも出来るのあったんだけど……、

多分、みんな考えるから誰かとかぶっちゃうとつまらないよね……。

準備する時間もないから、ちゃちゃっと台本書いて、

可憐ちゃんに手作りのコスプレ衣装着せて、アニメネタの漫才やったわけ。

……結果は……。
全然ウケなかったけど。

まあ、そんなものよね……やっつけ仕事だったし……。

でも、そのとき宴会を録画していた人が、

『この録画SNSにあげていい?俺、宴会芸の動画専門で集めてるんだけど』

と、言ってくれたんで、

『……いいけど』

って答えて、やっぱり気になったから自分でも観てみたの。

そしたら結構、視聴されているじゃない⁉


『……この手が有ったか』

それで自分でも新しく動画作ってどんどん投稿していったのね。

そしたらそれを観た人から、

『お祭りイベントに出演しませんか』
とか、
『ラジオの番組に出ませんか』
なんてお声がかかるようになったの。

すごい‼学校に行く前に声のお仕事じゃない‼

若い女性が腹話術なんて珍しかったみたいで、少し目立ったのかな。

それから両親には内緒でお仕事お請けして……、
ギャラは数千円とか商品券に粗品、だったけど。

すごく自信付いてきたし、将来のイメージもはっきりとしてきたの。

同時に自分の声ががまだまだ鍛えられてない事や、業界を知らない事も解ってきたのね。





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