OMUKAE☆DATE♪





そんな帰り道。




「カリッ。サク、サク、シャク、シャク
モグ、モグ……」

小気味の良い咀嚼音が聞こえて来る。

タクニイさんが持たせてくれた紙包みの中にはジャムサンドビスケットが入っていた。

パッケージは全文英語で書かれている。

写真もイラストも付いていないのだが、

それがお菓子であることを雰囲気で読み取ったユリちゃんは眼をキラキラさせて、

『これは自分にだ』

と、主張した。

「カリカリッ。コリ。サク、サク、シャク、シャク。モグ、モグ」

美味しい物があればユリちゃんはごきげんだ。

お願いだから、制服の上に食べこぼさないで~。

篠原くんはスマホを観ている。

「あ、……あった。これだ」
そう言って画面をこちらに向けた。

「『夕美と可憐の1分間トーク』
……ずいぶんたくさんあるな……。

これだけ全部自分一人で作るんだろ。
好きじゃなきゃできないよな」

「好きこそ才能って感じだね……。
大手の会社員なのに声優志望か……、

できる人って何でもやっちゃうんだ」

……将来。将来か……。

小学校の横の道に差しかかる。

今日も放課後の生徒達が

部活なのか、遊んでいるのか、楽しそうに走り回っている。

急に子供の頃を思い出した。

子供の頃から私はずっと不安だった。

得意なものなど何もなく、
さりとて美人でも利発でもない自分。

「ねえ、篠原くん。

あの子達も将来中学生になって、高校生になって、

大学生や社会人になるんだよね。

ユリちゃんも小学生になって、中学生になって、

今はこうやって抱っこされているけど、

いずれは社会人になるんだよ……」
何、当たり前の事言っているんだ私。

篠原くんは笑いながら、
「それ、僕達のほうが先だけど」
と言った。

「す……、すいません……。
現実逃避入ってました。

でも、将来の事ってあんまり考えた事なくて。

イベントプランナーのお姉ちゃんの仕事に憧れはあるけど……。

私、人当たり良くないし。まめじゃないし、ビビりだし。
家族や周りの人の仕事ってぜんぜん参考にならない。

篠原くんは?なりたいものとかあるの?」

篠原くんはじっと考えていたけれど、

「美術品の鑑定士か、もっと欲を言えば修復士になりたい……

なんて思ってた……こともあったっけ」
と言った。

「そう、卓にいのばあちゃんが生きてた頃は骨董品ずっと見てたし。

『李朝の壷』だの、『北斎の描き損じ』だの、

『どう見ても偽物でしょ』だったんだけど、

ばあちゃんや売人のおじさんの話がすっごく面白かった」

……ううむ。鑑定士に修復士。

よくわからんがなんかカッコいい響きの職業だぞ。

「……いいな。あるんだ、なりたいもの」
ちょっと敗北感。

普段クラスの教室で
『アイドルになる』だの、

『特殊部隊に入隊する』だの、喧伝してる連中と違って篠原くんは将来の話をあまりしない。

しないので自分のように別に考えてないのだと決めてかかっていた。

篠原くんは笑って、

「でも、現実的じゃないよね。

すぐにお金になるかって言えばそうでも無さそうだし。

その割りにはたくさん勉強しなきゃいけないような気がする」

ちゃんと冷静に考えてるじゃん。
それに比べて……。

「私、何も考えてない。

思い付くだけでもすごいな。

……特にやりたい事や興味のあることってないし」

言ってて情けなくなるが本当の事なのだ。

大体、楽しいと思い始めて長く続けられそうだった部活はやめる事になり、

嫌だと抵抗したユリちゃんのお迎えは、しぶしぶ行く事になった。

流されっぱなしなのだ。

篠原君はふふっと笑った。

「現実的じゃないもん。修復師なんて。そういう意味では僕も同じだよ」

それからうーんと言って、考える顔になった。

「でも、焦って余裕無くなるのはイヤだな」
篠原君は私をみた。

「その時が来れば分かると思う。
『これだ!これしかない!』っていうものは来たらわかる。

……大切なのは諦めずにそういう時が来るのを期待し続けること」

そして顔をくしゃっとした。

「これも、実は卓ニイの受け売り」

あー……。

「……言いそう。微妙に格言……」

でも。

「夢を叶えているのかな……」

タクニイさんが言うと、なんだか素直に聴ける気がする。

「叶えているっぽいよね」
篠原君がまた笑う。

あの狭くて濃厚すぎる耽美なお店を思う。

「叶えたいな、夢を」

いつもの横断歩道のところで、ユリちゃんが手を振る。

夢を叶えるにはまず、夢をみなければならない。


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