OMUKAE☆DATE♪
そうして母の後から家を出て鍵かけて。

外を歩くと、青空と心地の良い風。

「世界が広い……」

休みの日にいつもよりちょっと早起きしただけ。


図書館の前には鮮やかな色彩のタイル画が広がる通路があり、

その向こうに大窓があり、子供向けの本のコーナーがある。

そこだけ土足禁止で、寝そべっても読めるようにか毛足の長いじゅうたん。

カラフルなクッション。
シートやソファもパステルカラー。

外からでも見える。


ここいらへんの雰囲気好きなんだよね。
弾けた方向にゴージャス。

何気に子供思い。

ちょっとしたワクワク感。




その通路のタイル画の手前にアカシアの樹が生えている。
横に白いバンが止まっていた。

芝生に少し乗り上げてる。

ここ車止めて良かったっけ?
後部座席から足が出ていた。


モスグリーンのコーデュロイのパンツに素足。男の人のようだ。

こんなところに車止めて爆睡。
――こやつ何者よ?

通りかかりチラッと中を見る。

白いシャツで顔に中折れ帽を載せていた。

……あれ?この人のこの髪型どこかで……。



……?

「タクニイさん……?」


思わず呼びかけると、男は顔に載せた中折れ帽をフッと持ち上げ、

「あれ?香織ちゃん?」

――驚いた。何故ここに?

「男の人の格好だ……」

タクニイさんは目を線にして、

「そりゃ、男の人だもん」

それから、んーと伸びをした。
置いてたスニーカーを履き車から降りる。

「なあに?お休みなのに図書館でお勉強?
……どうしたの……うるうるして」

タクニイさんの質問に感動していると、

「それとも優人とデートかな?」
と、満面の笑みで冷やかしてきた。

「タクニイさん……その訊きかた、オジさんぽいです」

「そりゃ、オジさんだもの」

「残念ながらデートじゃないです。

調べものに行こうって思って……。

タクニイさんはどうしてここに?」

「うん。よくぞ訊いてくれた。
香織ちゃんにもちょいと見てもらおう」

そう言って、バンから大きめの白い紙ケースを二つ引き出した。

「まず、これを見て。

海外から輸入した工場の作業着なんだけど、水場で使うからビニール製なのね。

これだけでも充分面白いんだけど、そのうえ安いのよ」

タクニイさんがそう言って箱から出して広げたのは、

テカテカの素材のパッと見ワンピースのような大きめの白い服だった。

「……これがね、服作りの作家さんの手にかかるともっと面白くなるわけ」

そう言って、もう1つのケースを開けた。

「……わあ」

同じ服だとはとても思えない。

それほどまでに飾り立てられ、変型が施されていた。

肩の部分は蛇腹にふくらんだサテン製の袖が、非対照に取り付けられていた。

あちらこちらにビーズやスパンコールが縫い付けられ、チェーンも渡っている。

そして、素材を合わせた白のフリル。
沢山、フリフリ。

「……もしかして、これは、ウエディングドレス?」

「ご明察。アバンギャルドでしょ?

新郎新婦はどちらもロックミュージシャンなの。

このドレスの作家さんは、自分がイメージが湧かないと仕事してくれない気難しい人なんだけど……

まー、一旦始めたらこの通り完璧でさ……試着が楽しみ」

嬉しそうに笑う。

わざわざ箱から出して、女子高生に自慢して。

「あのう、タクニイさん。
前々から不思議だったんだけど」

訊いてみたい事があった。

「どうしてお仕事の邪魔みたいになってるのに、親切にしてくれるんですか?」

タクニイさんは一瞬キョトンとした表情になってから、んー、と考えて、

「ひとつは、『優人のお友達だから』よね」

それからまた、あごに指を添えて考える仕草をして、

「あと、若くてカワイイ女の子好きだし、……。

それに、『昨日の冷やかしは明日のお客様』ってのが座右の銘だから」

さらに腕組をして偉そうに言う。

「お店に来て良いな、って思うもの沢山、あるでしょ?

わたしの審美眼で厳選チョイスの逸品ばかりだもの。
あなたのお気に召す事、間違いナシ!な訳よ」


そうやって話を訊いていると、通路の向こう側から大きな紙袋を持って歩く人影が。

「あ、香織ちゃんだ。

店長、戻ってたんなら、こっちも回ってくれたら良かったのに……」

あの金髪に黒縁メガネの青年だ。

赤いチェックのネルシャツにダメージジーンズ。

「……普通の格好だ」

思わず言ってしまうと、

「まあ、想定内の反応ですね。

あのですね、一見普通に見えるコーディネートですけど。

それだけに意外性のある良いブランドを組み合わせているわけですよ。

見る目のある人はこの……」

と、ブランドネームを引っ張って指す青年。

タクニイさんは青年を全く無視してがさがさと紙袋の中を確認していた。

「おぉ~、良い出来じゃない!
ちょっと、見て見て、香織ちゃん」

「僕の話もきーて下さいっ!」

タクニイさんが紙袋から広げたのは、淡い七色で刺繍された薄もののスカーフだった。














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