OMUKAE☆DATE♪

エピローグ·手を伸ばす。

翌日の学校。帰りの掃除の時間。

ーー周囲を伺い、誰もいない事を確認してから、洗い場の篠原くんに、ホウキを持ったままにじり寄る。

篠原くん、腕まくりで黙々と雑巾洗い。

ーー真面目。

誰もいないけど、念の為さらに小声。

「篠原くん、私、ユリちゃんのお迎え、行かなくて良くなった……」

篠原くんはバッとこっち見て、

「ええッ!来週までじゃないの?!
保育園の工事、まだ終わってないよ?……何で?!」

……声が大きいよ、篠原くん……。

(……クラスのみんなにナイショなの、なんとなくわかってるじゃない……!)

……私は息を一度吸い込んで、さらにおごそかに静かに言う。

「……でも、今日は一緒に帰ります」

篠原くんは呆然とした顔で私を見た。

「……お話したい事があります」

無言の篠原くんの目はまん丸になった。


さあ、一応、要件は済んだ。
私はそそくさとその場から離れる。

それから、



学校からは篠原くんが先に出た。

どんどん歩く。

帰り道、距離を取って二人共無言。
篠原くんに近づく。

「お義兄さん、……お姉ちゃんの旦那さんが、迎えに行く事ができるようになったって」
と、いきなり話しかけた。

「……そう」
篠原くんが答える。


また、二人共無言。

「それで、……お話したい事と言うのはですね……」

二人共無言。




……言わなきゃ。

「あの……」

「ストップ!!」

言いかけた私を篠原くんが制する。

「僕も前田さんに話したい事ある。
……僕から先に言っていいかな?」



なんとなく予感がする。

篠原くんは、何か言いかけてやめ、を繰り返して意を決した表情になり、



「香織さん、僕と付き合って下さい」

と、言った。




こういう時の返し方。

一瞬、あのお嬢様の顔が浮かぶ。



「謹んで、お受けいたします」



あれ?変かな?
美羽根 希沙だったら、こんな風に言うだろう。



篠原くんはため息ついてホッとした表情になり、

「やったあ!よかった。断わられたらどうしようかと思ってた」

と、言った。

「いやいや、この流れでそれはないです」
ちょっとおどけてみる。

「そちらの話って……?」
篠原くんが訊く。

「同じです。今、終了しました」
急に緊張が解けるわたし。


「あー……」
急に額に片手をやり落ち込む篠原くん。

「告白の場所が……、保育園の前とか。
雰囲気なさ過ぎる。……やり直したい……」

落ち込むポイント、そこなの?

「私も……、こちらから告白しても、

『他に好きな人がいます。あなたは友達です』
とか、

『僕たちって、もう付き合ってるんじゃないの』
なんて、
お付き合いできても、ややはぐらかしたお返事で、二の句が継げないのではないかと」

篠原くんは、
「それはないでしょ!」

と言ってから、

「でも、後半のはよくありそうなセリフ。……もしかしたら言ってしまっていたかも」

……などと言った。




……ぷぷ。

……くくく。……ははは。
あはははは……。

二人してひとしきり笑ってから、



篠原くんが手を伸ばす。

その手を取る。



手を、伸ばしてもいいのだ。




真っ直ぐ進んで行けばいい。
手に入れたいものはたくさんある。



欲しいと思ってもいいのだ。
願う事は自由だ。

臆病な私達。

少しづつ、少しづつ、未来に向かって進む。


ーースカーフを差し出したタクニイさん。

ーーイチゴを頬張るユリちゃん。



音楽や、映画や、小説や、マンガやアニメ、舞台や、ファッションや、

ーーそばにいる人たち。





ちからになってくれるものはきっと、たくさんある。



「いま、僕、そうとう幸せ」
と、篠原くん。







……また先に言われてしまった。











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