OMUKAE☆DATE♪
横断歩道を渡って振り返ると、
篠原君はもう一度こちらに手を振った。

「ユリちゃん、お兄ちゃんにバイバイして」
頼むと、ユリちゃんは割と素直に代わりに手を振ってくれた。

おお、

こうなるとかわいいな。

図書館の角を曲がると家が見えてきた。

ホッとする。

玄関の鍵をかけた後、制服のままリビングでユリちゃんのオムツを替えてあげていると、

玄関が開く音がして母が入って来た。

「あら、なあに?今帰ってきたの?」
手に会社のロゴが入った紙袋を下げている。

「ちょっとだけ心配だったから、
早めに帰ってきたのよ。
ブルーベリーマフィン、食べる?
社販のだけど」

静寂が一気に破られ、台所で紙袋とパッケージが開けられる音がする。

「この時間までユリちゃん連れて、どこに寄ってたの?
ちゃんと時間までにいけた?」

……気安い感じで言っているけれど、怒ってますよね?母上。

「ん~、途中で友達に会って話し込んじゃって」
嘘は言ってない。

「まあ、赤ちゃん連れてたら話かけてくる人多いけどね。
気を付けてよ?最近は物騒なんだから。

風邪ひかせちゃったりしてもよくないし」
ブルーベリーマフィンをお皿に移しつつ母は言う。

「ん~、明日はもっと早く帰ってくるよ。
ユリちゃんも疲れちゃうだろうし」
そう答えててユリちゃんを見ると、

全然元気。

あ~、若い。若いな~、って‼
ずっと抱っこされて、飲みものまでもらっているからじゃん!

かばんから出番の無かったマシュマロを取り出すと、完全に潰れていた。



――篠原君のことを考える。



教室の机に座って、友達と話してる篠原君。

本を読んでいる篠原君。

物静かだった篠原君のイメージが、急に深いものに変わっていく。

ひとのことなんて
何となくわかっているつもりで、

実は全くわからないものなのだ。



オムツを替えてもらってごきげんのユリちゃんは、ハイハイして

お気に入りの縫いぐるみを引き寄せた。

(ユリちゃん、それ、私の)

ちょこんと座ると、ぎゅっと抱きしめている。
縫いぐるみのクマのほっぺとユリちゃんのほっぺがくっつく。

そして縫いぐるみのクマをソファの上に手を伸ばし、そおっと座らせた。

何かどっかで見たことあるぞ。

あの金髪の青年のマネか⁉

ユリちゃんに向かって、口に人さし指をあて、
「しーっ!しーっ‼」
口止めすると、

ユリちゃんはこちらを見て
イタズラっぽくにこおっと笑ったのだ。









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