素肌に蜜とジョウネツ

せめて、部屋に戻ってから、泣くだけ泣こう。

そう思って、マンションの中へと入ろうとした瞬間だった。


「っ―…!?」


誰かが、私の手首を掴んだ。

強く、手首を掴まれて、グイグイと何処かへ連れて行かれる。


この感覚って―…


直ぐに、あの夜の帰り道を思い出した。

黒い衣服に身を纏った男に襲われた、あの夜の事を―…

しまった。

やられた。

すっかり油断していた……

記憶はどんどん蘇ってくるのに、遠くなっていくマンションの入り口。

何処に連れて行かれて、何をされるんだろうっていう不安が襲う。


「だ……れか……っ」

“助けて!”


叫びたいのに、叫べない。

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