素肌に蜜とジョウネツ

エレベーターの中での会話はそれだけで、私の部屋の前に着いてしまう。

部屋に入る前に、せめて、お礼は言わなきゃ……

そうは思いながらも、言えなくて、時間を稼ぐように鞄の中から鍵を探す。

それでも言葉が出てくれなくて、取り出した鍵を鍵穴に差し込んだ。

と、その瞬間、


「おい」


何かに気付いた様に、私の手を掴んだ高輪マネージャー。


「掴まれた痕……残っているじゃないか」

「え……」


上島さんに掴まれた私の手首には痕が残っていた。


「痛いだろ……?」


そう言って、優しく、高輪マネージャーは私の手を取る。

痛い。痛いよ、勿論……

でも、痕が残る手首の痛さよりも、

私の心が痛い。

< 292 / 374 >

この作品をシェア

pagetop