【短編】きみの甘くない魔法
「ん?」
私の顔を心配そうに覗き込む彼も、なんだか泣きそうな顔をしていて。
はじめて私のこと、ちゃんと見てくれた気がして。
「……私も、魔法かけてほしかった」
「え……?」
いや、魔法にはもうとっくにかかっている。
きみがくれる、あの子に渡すついでの甘くないお菓子。
あれはきっと毒林檎で、毎日毎日、少しずつ私の中に毒がたまって。
ドロドロしたこの毒が、私を苦しめる。
「甘い魔法、かけてほしかったよ」
もっとしあわせな、魔法を。
ふわふわのシフォンケーキみたいな。
お砂糖いっぱいのマドレーヌみたいな。
イチゴたっぷりのショートケーキみたいな。
そんな、甘くてしあわせな魔法を。