【短編】きみの甘くない魔法
きみが彼女に渡せなかったガトーショコラは、全然甘くなくて。
苦くて、くるしくて、胸が痛くて。
「…何で汐田が泣くんだよ」
驚いたようにこっちを見て、ふっと笑って呟いたコウに、初めて自分が泣いていることに気づかされた。
「え……なんで、だろう」
慌てて目元を拭うけれど、ぽろぽろと溢れる涙は止まってくれない。
きみが一生懸命卵を泡立てる、その横顔がすきだった。
『あの子が笑いかけてくれる魔法なんだ』
そう言って笑う、切ない表情もすきだった。
『作り方教えてくれてありがとう!』
そう言って去っていく、その背中さえもすきだった。
「……コウ、」