桜の花びらのように
自分の胸の中に生まれた感情を言葉にしないことは、その感情が可愛そうだ。

そんなことを今までずっと思ってきた。

「綺麗だね」

だけど、桜の木の下にいる彼女の前では、僕の胸の中に生まれた感情は言葉にできずにいる。

彼女が笑うたびにこの感情は大きくなっていき、僕の胸は今にも張り裂けそうだ。

「・・・本当ですね」

あの花びらが地面に舞い落ちたら・・・

あの花びらが・・・

そんなことを思い続けるだけで、言葉はでてこない。

桜が咲く頃にやって来て、舞い落ちる頃に去っていく。

彼女はまさに桜のようだった。

「来年は・・・ここに来れるかな」

「えっ」

僕が一番好きな彼女の表情でそんなことを言われると、戸惑ってしまいつい下を向く。

そして、いつものように温かいその手で、僕の頭を撫でてくる。

今年の桜も舞い落ちるときが近づいてきた。

それは、そんなことを知らせる合図のようなものだった。
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