流転王女と放浪皇子 聖女エミリアの物語
と、そのとき、異変が起こった。
父王の手からグラスがこぼれ落ち、テーブルの上に転がる。
父王は大きく目を見開いて喉をかきむしるようにしながらテーブルに突っ伏した。
「お父様、どうなさったのですか」
エミリアの呼びかけにも答えず、王は口から泡を吹いて動かなくなった。
かたわらのシューラー卿も異変に気づいてグラスを取り落とす。
床の上でグラスが砕け散り、音で事態に気づいた客達の間から悲鳴が上がる。
マウリス伯が駆け寄って王の脈を診た。
「なんということだ。国王陛下が亡くなられた。一同、この場を動くでない」
「お父様が、そんな……」
エミリアは絶句したまま動けなかった。
シュライファーが背中を支えながら声をかけた。
「お嬢様、お気を確かに」
マウリス伯は衛兵を呼びつけた。
「給仕長を呼んで参れ」
「はい、直ちに」
厨房から訳も分からず引きずり出されてきた給仕長は大広間の惨状を目にして震えだした。
「へ、陛下はいかがなされたのですか」
「毒を盛られたに違いない。おまえ、このグラスの酒を飲んでみろ」
マウリス伯はテーブルに転がった王のグラスに酒を注いで給仕長に突きつけた。
「し、しかし、それに毒が入っていたのではありませんか」
「何、毒入りだと!? おまえはそれを認めるのだな」
「いいえ、めっそうもございません。わたくしではございません」
「しかし、給仕長という立場を利用して毒を入れることは可能ではないか。しかも、今、おまえは毒入りであると自ら認めておったではないか」
「いえ、違います。そう思っただけでございます」
黙れと一喝すると、マウリス伯は衛兵にアインツ・ブリューガーも拘束させた。
「おまえが献上品に毒を仕込んだのか」
「いいえ、そのようなことがあるはずがございません。聖なる酒の証として壺の口は封印されておりました。毒など入れることは不可能でございます」
「衛兵ども、この二人を地下牢へ連れていけ。拷問にかけてもかまわん。関わった者をすべて自白させろ」
給仕長は青い顔をして泣き叫びながら引きずられていく。
貿易商人は毅然として壇上のマウリス伯を見上げた。
「お待ちください。わたくしはやっておりません」
「後ほど取り調べる。それまでぶちこんでおけ」
抵抗するアインツを殴りつけながら衛兵が引っ張っていく。
父王の手からグラスがこぼれ落ち、テーブルの上に転がる。
父王は大きく目を見開いて喉をかきむしるようにしながらテーブルに突っ伏した。
「お父様、どうなさったのですか」
エミリアの呼びかけにも答えず、王は口から泡を吹いて動かなくなった。
かたわらのシューラー卿も異変に気づいてグラスを取り落とす。
床の上でグラスが砕け散り、音で事態に気づいた客達の間から悲鳴が上がる。
マウリス伯が駆け寄って王の脈を診た。
「なんということだ。国王陛下が亡くなられた。一同、この場を動くでない」
「お父様が、そんな……」
エミリアは絶句したまま動けなかった。
シュライファーが背中を支えながら声をかけた。
「お嬢様、お気を確かに」
マウリス伯は衛兵を呼びつけた。
「給仕長を呼んで参れ」
「はい、直ちに」
厨房から訳も分からず引きずり出されてきた給仕長は大広間の惨状を目にして震えだした。
「へ、陛下はいかがなされたのですか」
「毒を盛られたに違いない。おまえ、このグラスの酒を飲んでみろ」
マウリス伯はテーブルに転がった王のグラスに酒を注いで給仕長に突きつけた。
「し、しかし、それに毒が入っていたのではありませんか」
「何、毒入りだと!? おまえはそれを認めるのだな」
「いいえ、めっそうもございません。わたくしではございません」
「しかし、給仕長という立場を利用して毒を入れることは可能ではないか。しかも、今、おまえは毒入りであると自ら認めておったではないか」
「いえ、違います。そう思っただけでございます」
黙れと一喝すると、マウリス伯は衛兵にアインツ・ブリューガーも拘束させた。
「おまえが献上品に毒を仕込んだのか」
「いいえ、そのようなことがあるはずがございません。聖なる酒の証として壺の口は封印されておりました。毒など入れることは不可能でございます」
「衛兵ども、この二人を地下牢へ連れていけ。拷問にかけてもかまわん。関わった者をすべて自白させろ」
給仕長は青い顔をして泣き叫びながら引きずられていく。
貿易商人は毅然として壇上のマウリス伯を見上げた。
「お待ちください。わたくしはやっておりません」
「後ほど取り調べる。それまでぶちこんでおけ」
抵抗するアインツを殴りつけながら衛兵が引っ張っていく。