流転王女と放浪皇子 聖女エミリアの物語
「内緒だよ」
少女はエミリアの胸元の傷を見つめている。
「ママもね、同じ傷があったよ」
同じ病気にかかったのだろうか。
少女がため息混じりにつぶやいた。
「ママはね、死んじゃったの。この傷は治らなかったんだ」
「そうか、それは……」
かけてやる言葉が見つからなかった。
「ママはね、天国に行くんだって。でもね、まだあたしは来ちゃだめなんだって」
少女がエミリアの顔をのぞき込みながら胸の瘡蓋傷をなぞる。
「お兄さんはどうして天国にいかなかったの? 呼ばれたんでしょう?」
『死神の手形』という名の傷は確かに呼ばれた印なのだろう。
だが、それは誰になのだろうか。
呼んだのが死神なら、自分はここにはいないはずだ。
「どうしてだろうね。僕にもわからないや」
「だからあたしに会いに来てくれたんだね」
少女の言葉の意味がよく分からなかった。
「君、名前は?」
少女が首をかしげる。
「言わないわ」
「どうして?」
「だって、お兄さん、どうせいなくなっちゃうんでしょう?」
「そうだね」
少女はエミリアの頬に口づけて一歩跳び退いた。
「じゃあね、お兄さん」
手を振りながら工房の中へ駆けていってしまった。
「おい、なんだ、まだ洗ってたのか」
声がする方を見るとエリッヒが戻ってきていた。
「あ、すまない。今服を着るよ」
つい、男言葉になってしまう。
少女に用意してもらった服を着て桶の水を捨てていると、エリッヒがつぶやいた。
「あんたもやっぱり女なんだな」
「まあ、見てたのですか」
エミリアが赤面すると、エリッヒの顔も赤くなる。
「いや、俺は何も見てないぞ。今戻ってきたところだからな」
「嘘の下手な最低の男。見損ないました」
自分で洗った洗濯物を干す。
完全にきれいになったわけではないが、泥はほとんど落ちている。
裾を引っ張ってまっすぐにしてやる。
そよ風に翻る様子がすがすがしい。
少女はエミリアの胸元の傷を見つめている。
「ママもね、同じ傷があったよ」
同じ病気にかかったのだろうか。
少女がため息混じりにつぶやいた。
「ママはね、死んじゃったの。この傷は治らなかったんだ」
「そうか、それは……」
かけてやる言葉が見つからなかった。
「ママはね、天国に行くんだって。でもね、まだあたしは来ちゃだめなんだって」
少女がエミリアの顔をのぞき込みながら胸の瘡蓋傷をなぞる。
「お兄さんはどうして天国にいかなかったの? 呼ばれたんでしょう?」
『死神の手形』という名の傷は確かに呼ばれた印なのだろう。
だが、それは誰になのだろうか。
呼んだのが死神なら、自分はここにはいないはずだ。
「どうしてだろうね。僕にもわからないや」
「だからあたしに会いに来てくれたんだね」
少女の言葉の意味がよく分からなかった。
「君、名前は?」
少女が首をかしげる。
「言わないわ」
「どうして?」
「だって、お兄さん、どうせいなくなっちゃうんでしょう?」
「そうだね」
少女はエミリアの頬に口づけて一歩跳び退いた。
「じゃあね、お兄さん」
手を振りながら工房の中へ駆けていってしまった。
「おい、なんだ、まだ洗ってたのか」
声がする方を見るとエリッヒが戻ってきていた。
「あ、すまない。今服を着るよ」
つい、男言葉になってしまう。
少女に用意してもらった服を着て桶の水を捨てていると、エリッヒがつぶやいた。
「あんたもやっぱり女なんだな」
「まあ、見てたのですか」
エミリアが赤面すると、エリッヒの顔も赤くなる。
「いや、俺は何も見てないぞ。今戻ってきたところだからな」
「嘘の下手な最低の男。見損ないました」
自分で洗った洗濯物を干す。
完全にきれいになったわけではないが、泥はほとんど落ちている。
裾を引っ張ってまっすぐにしてやる。
そよ風に翻る様子がすがすがしい。