流転王女と放浪皇子 聖女エミリアの物語
工房から職人の男が出てきた。
さっきの少女の父親で、この工房の親方なのだろう。
服の礼を言うと、手招きをして薪のある場所に連れていかれた。
となりに小麦の袋が積んである。
「あんたらに頼みたいんだが、これを教会の粉挽き所に持っていって粉にしてきてほしいんだ」
この時代、小麦を粉に挽くための石臼には高額な税金がかけられていて、領主や教会の収入源になっていた。
村人やパン屋などはいちいち粉を挽いてもらわなければならない仕組みになっていたのだ。
「人手が足りなくてな。頼んだぞ」
「わかりました」
二人は荷車に袋を載せて教会へ向かった。
「ナポレモの城にも粉を挽きに来ている者達がいましたわ」
「偉い連中は貧乏人から税金を取る」
「理不尽ですわね」
「じゃあ、あんたはどうする?」
そんなことを言われたところで、エミリアにできることなど何もなかった。
この世が単純でないことが少しは分かるようになっていた。
そして、また、自分には単純なことしかできないことも思い知っていた。
今はただ言われた通りこの小麦を粉にするだけだ。
教会の裏口まで来ると、怪訝な顔をした使用人が二人の前に立ちはだかった。
「あんたら見ない顔だね」
「旅の途中でね。ちょっと手伝いを頼まれたのさ」
「ふん、よそ者かい。さっさと済ませてくれよ」
使用人が帳面に数量を記入して税金を計算し、金額を木片に書き留める。
「親方に渡しておきな」
「これはまた、たいした税金だな」
「よけいなこと言うんじゃない」
石臼は風車で動かしている物と人力の物がある。
幸い、今日は風車が使えるようだ。
ごりごりと回転する石臼に小麦を投入し、挽かれた粉を袋に戻す。
地味な作業を続けているうちにすっかり日は高くなっていた。
昼過ぎに工房に戻ると、少女が野菜を煮込んだスープを出してくれた。
「こいつはごちそうだな」
「おいしいよ。ありがとう」
二人のほめ言葉に返事をせず、無表情なまま少女は食堂を出ていってしまった。
テーブルの上にはもう一人分の皿が出ていた。
親方が入ってくる。
午前中ですべてのパンが焼き上がったらしく、くつろいだ表情でスープを味わっている。
「おい、あんた」とエミリアは声をかけられた。
「はい」
「うちの娘を泣かせただろ」
「えっ?」
「旅の男に惚れるとは運のない娘だが、まあ、こんだけええ男じゃあ、しゃあないな。あれも男を見る目は母親譲りだからな」
あっけにとられているエミリアの腕をエリッヒが肘で押す。
「何をするんです」
ニヤリと笑みを浮かべながら必死に目配せをしている。
エミリアは愛想笑いを浮かべながらスープを飲むのが精一杯だった。
さっきの少女の父親で、この工房の親方なのだろう。
服の礼を言うと、手招きをして薪のある場所に連れていかれた。
となりに小麦の袋が積んである。
「あんたらに頼みたいんだが、これを教会の粉挽き所に持っていって粉にしてきてほしいんだ」
この時代、小麦を粉に挽くための石臼には高額な税金がかけられていて、領主や教会の収入源になっていた。
村人やパン屋などはいちいち粉を挽いてもらわなければならない仕組みになっていたのだ。
「人手が足りなくてな。頼んだぞ」
「わかりました」
二人は荷車に袋を載せて教会へ向かった。
「ナポレモの城にも粉を挽きに来ている者達がいましたわ」
「偉い連中は貧乏人から税金を取る」
「理不尽ですわね」
「じゃあ、あんたはどうする?」
そんなことを言われたところで、エミリアにできることなど何もなかった。
この世が単純でないことが少しは分かるようになっていた。
そして、また、自分には単純なことしかできないことも思い知っていた。
今はただ言われた通りこの小麦を粉にするだけだ。
教会の裏口まで来ると、怪訝な顔をした使用人が二人の前に立ちはだかった。
「あんたら見ない顔だね」
「旅の途中でね。ちょっと手伝いを頼まれたのさ」
「ふん、よそ者かい。さっさと済ませてくれよ」
使用人が帳面に数量を記入して税金を計算し、金額を木片に書き留める。
「親方に渡しておきな」
「これはまた、たいした税金だな」
「よけいなこと言うんじゃない」
石臼は風車で動かしている物と人力の物がある。
幸い、今日は風車が使えるようだ。
ごりごりと回転する石臼に小麦を投入し、挽かれた粉を袋に戻す。
地味な作業を続けているうちにすっかり日は高くなっていた。
昼過ぎに工房に戻ると、少女が野菜を煮込んだスープを出してくれた。
「こいつはごちそうだな」
「おいしいよ。ありがとう」
二人のほめ言葉に返事をせず、無表情なまま少女は食堂を出ていってしまった。
テーブルの上にはもう一人分の皿が出ていた。
親方が入ってくる。
午前中ですべてのパンが焼き上がったらしく、くつろいだ表情でスープを味わっている。
「おい、あんた」とエミリアは声をかけられた。
「はい」
「うちの娘を泣かせただろ」
「えっ?」
「旅の男に惚れるとは運のない娘だが、まあ、こんだけええ男じゃあ、しゃあないな。あれも男を見る目は母親譲りだからな」
あっけにとられているエミリアの腕をエリッヒが肘で押す。
「何をするんです」
ニヤリと笑みを浮かべながら必死に目配せをしている。
エミリアは愛想笑いを浮かべながらスープを飲むのが精一杯だった。