王女にツバメ
その背中に翼などなく
その夜、琉生は来た。服が昼とは違う。わざわざ着替えたらしい。
確かに、服装が違えば違う人間に見えるのかもしれない。
「……身の回りの整理整頓をね」
「身辺整理」
「四字熟語、よくできました」
「もっと褒めて」
後ろから抱きついてくる琉生から緩やかに逃れて、キッチンへ行く。
「裏葉さん、来週末空いてる? どっか行こうよ」
「来週末……?」
「14日」
カレンダーを見るより先に答えが返る。
あたしはコーヒーを淹れながら、昼のことを思い出していた。ぐるぐると。
それから、王子の元を去らなかったツバメのことを。