無気力オオカミくんは、私だけに夢中。
「陸人くんに、心配かけてごめんって言いな」
「んえ……?」
「今日は俺がいたからよかったけど、ほんとは危なかったんだから」
利奈は首をかしげながらも、うんと小さくうなずいた。
「りくとごめん……」
陸人くんはまたあいまいに笑いながら、利奈の頭をくしゃっと撫でる。
やさしー手つき。
これは、そうとう大事にしてる。
こっちが目をそらしたくなるくらい。
いい男のフリ、余裕のある男のフリ。
俺、なにしてんの。
イライラした。
陸人くんを前にして、らしくない感情に陥る自分に対して。
やばい。
いつもの調子がわかんなくなってきた。
学校の友達に対して、どんな表情で、どんな口調で話してたのか。
陸人くんに対して余裕を見せつけるようなこと言った。わざとだけど、半分無意識。
今まで俺にさんざん甘えてた利奈が、あっさり陸人くんに体を預けるのが気に食わなかったらしい。
ダサいって分かってたけど、それでも利奈の口元に手を伸ばしてしまった。
「口紅、滲んじゃったね」
わざと含みをもたせて、陸人くんのほうは見ずに背中を向ける。
頭の中で自分のセリフを復唱すると、可笑しくて仕方なかった。