無気力オオカミくんは、私だけに夢中。
「………えっ!?」
頭の中で、いま目の前で起こった映像をリプレイして、状況把握して、ほっぺにキスされたことに気づいて……
ようやく叫び声をあげたころには、西野はもうスクバを持って、席を離れようとしていた。
「なんで? からかわないでって言ったばっかりなのに……っ」
触れられた方のほっぺたがジンジンする。
腫れてるんじゃないかってくらい熱い。
今から、彼女じゃないとはいえ、他の女の子と会うくせに。
やっぱ信じられないし、信じられないくらいずるい。
「1人ぐらい引っかき回すタイプのキャラがいないと、少女漫画のハッピーエンドは成り立たないしね」
「……なんの話?」
「俺に似合いの役だって話」
目を細めて、西野は背を向けた。
……だめだ、完敗。
西野の姿が廊下に消えると、行き場のない想いだけが大きくなって、また胸の中を埋めた。