無気力オオカミくんは、私だけに夢中。

西野くんの動きがピタッと止まる。
それから長いあいだ何も言わないから、時間まで止まってしまったのかと思った。

ソファが沈んで、西野くんが立ち上がる。

色のない目で私を見下ろしてきた。



「……誰」



冷たくもない、温かくもない響き。
なに考えてるか、まったくわからない。


「誰?好きな人」


同じ調子で質問をくり返す。



「……興味ないくせに聞くの?」

「あるよ興味。利奈が好きになるのは、どんなヤツなのか」



嘘つき。



「ねえ、誰」

「西野く……、西野には教えない」

「だめ。教えてくれないと襲う」

「っ、はあ?」



冗談やめてよ、って続けようとしたけど、相手がニコリともしないから言葉を切った。
この人なら、本当にやりかねないかも。

危ないオオカミ。



「利奈」


逃げなきゃ。
そしてその前に、なんか言わなきゃ。
んんん、こうなったら……。



「私の好きな人は……、黒髪で、チャラくなくて真面目で授業サボらなくて、えーっと、制服着崩してなくて……とにかく、西野とは正反対だから!」



そう言い捨てて、さっと横を通り抜けた。
ドアの鍵が閉まってたことを忘れて、ドンッと頭をぶつけてしまったけど、気にしてられない。

談話室を飛び出して、行き先も決めないまま走った。
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