無気力オオカミくんは、私だけに夢中。
とっさに目を逸らす。
不自然にならないように鈴ちゃんの顔を見ておしゃべりに夢中なフリをしながらも、無意識に前髪を触ってしまう。
普通にすれ違えばいいだけなのに、その普通がわからなくなってしまった。
キスした相手にニコッて笑いかけて「あ。西野バイバイ~」なんて、できっこない。
かと言って、隣の席のクラスメイトを丸無視ってわけにもいかないし。
考えてるうちにも距離はあっというまに縮まって、視界の端に、西野の影が写りこんだ。
「──────あ、遥日。やっほ~」
すれ違う一歩手前で、西野は足を止めた。
声を掛けたのは私じゃない。
鈴ちゃんでもない。
教室の窓からひょこっと顔を出した、絹川雛子ちゃん。長くて綺麗な髪がさらっと揺れる。
「遥日が放課後1人でいるの珍しいね~。どこ行ってたの?」
「職員室。ありがたいご指導受けてきた」
「えー、それはお疲れ様すぎる。あたしが労ってあげようか」
「そりゃどーも」