無気力オオカミくんは、私だけに夢中。
女子トイレ付近にある鏡付きの手洗い場には、ビューラーで必死にまつ毛をあげたり、これでもかってくらい前髪を整えてたりするキラキラ女子軍団で溢れかえってた。
隙間から手を伸ばして、やっとの思いで歯磨き用のコップに水を貯める。
そこからちょっと離れた場所で歯ブラシを動かしながら、鈴ちゃんはいつものようにムッとした顔をつくった。
「鏡族め~。水道にあれだけ溜まられたら迷惑だっての~」
鏡族──────カガミゾク。
鏡付き水道を占領する女子軍団のことを、鈴ちゃんはそう呼んでる。
うーん、ほんとに迷惑だ。
でも、女の子はいつだって可愛くいたいもんね。気持ちはよくわかる。
だから学校は、女子専用の大きい部屋をつくるべき。
メイクは原則禁止でも、髪を直したりリップ塗ったり……女子には欠かせないことだから。
「あっ、彼氏から電話だ~!」
語尾にハートマークをつけた鈴ちゃんは、ものすごい速さで激混みの水道へ戻っていった。
スマホを片手に、まだ歯磨きしてる私にピースサインを向けると校舎裏へと消えていく。