罪作りな彼は求愛方法を間違えている

私が…こ、婚約者?

何言ってるのよと慌てふためきたいが、高級感のあるロビーで声を上げる勇気もなく、あわあわするだけだった。

「かしこまりました。石黒と申します。何かあればなんなりとお申し付けくださいませ」

「あっ、はい。こちらこそよろしくお願いします。私、斉藤と言います」

とりあえずの社交で返すが、ここに住むことも婚約者だという件も納得しているわけではない。

「そちらは?」

キャリーを見る石黒さんに、高橋さんが『ペットのそら』だと、勝手に紹介している。

「そらさまですね。ペット用品もご用意できますので、必要な物があればお声をかけてください」

「あぁ、わかった。その時は頼む」

『はい』と頭を下げた石黒さんと別れ、エレベーターに乗ると、表示は高層階を目指して上がっている。

うそでしょ…

あっと言う間について、彼が住むというロビーの床は、多分、とても高い大理石⁈で、その上を歩くには、躊躇うぐらいの艶光に足が竦む。

彼に手を握られ、恐る恐る足を進めて行くと自動でドアが開いて、つい、金持ちって嫌いだと悪態をつきたくなる。

そして、自分のマンションの部屋ぐらいのリビングの広さに、言葉を失うのだった。
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