罪作りな彼は求愛方法を間違えている

「避けられてる間、千花のいない世界なんて、俺にはもう耐えられないって思い知らされた。だから、店の奥で千花の気持ちが見えるまで、ドキドキして聞いていた」

私の手のひらを自分の胸に持っていき、心臓の速さを教えようとする。

「すごくドキドキしてる」

「あぁ、すごく緊張してるからな」

手を繋いで歩いた階段の奥にある部屋は、寝室で、キャビネットの引き出しから高橋さんはリングケースを出した。

「本当は、ちゃんと考えてするつもりで用意していたんだ。でも、そんな悠長なことしてると、また、お前は逃げ出しそうだからな…」

彼はケースをぱかっと開け、指輪を出して私の薬指に差し込んだ。

キラキラ光、大きな石のついた指輪に目を奪われる。

なんカラットあるのだろう?

思わず、怖くて指輪を外そうとしたら、その上から手を握られてしまった。

「千花…好きを通り越して愛してる。俺と結婚してください」

高橋さんらしくない、プロポーズ。

だからこそ、ときめかないはずがない。

「私も好きを通り越してとっくに愛してるんだから…」

泣きじゃくる私の顔中に、キスの雨がふる。

愛しい気に微笑む彼が、この時、何を思っていたかなんて考えたくもないが、彼によって私は、衣食住を与えられ、この広いケースに囚われるのだった。


〈END〉


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