罪作りな彼は求愛方法を間違えている
慌てて火を止めたが、吹きこぼれてしまい、ジュッとなる音と湯気にため息をついた。
あーぁ、掃除しなくっちゃ…
本来、料理全般が苦手な私は、いつもなら、コンビニかレンジで温めて済む物を食事に選ぶのに、なぜか今日に限ってうどんなんて作ってしまったのだろうと、汚れたガスコンロの天板を見て更に機嫌が悪くなる。
こんな事になったのも高橋さんのせいだと、居もしない人物に八つ当たりをする普段と違う家主の姿に、そらくんがじっと伺っていた姿も気がついていなかった。
菜箸を口に咥え鍋ごと持って、ソファ前のテーブルで食事をしようと床に座ったのだが、鍋敷きを持って来なかった事に気がついて辺りを見回すと雑誌がぼろぼろな状態で落ちていた。
もちろんその犯人は一匹しかいなのだが、その雑誌を鍋敷きの代わりに敷いてしまう自分を、女子としてどうだろうととんちかんな疑問を持つ。
鍋と菜箸で食べる事に女子としてどうかと疑問を先に思わないのかと第三者なら思うはずだが、それが日常の中で当たり前になっている私は気にならないらしい。
うどんをすする私の膝の上に、軽い重みが加わり、耳をピクピク動かす黒い毛並みの頭頂部がひょっと出てきた。