罪作りな彼は求愛方法を間違えている
まるで、鞄を人質に取られた感じがして後をついて行くしかなかい。
開いたドアを閉める時に、助けてくれなかったコウ兄を恨めしげに睨んでやると、苦笑いしているだけ…
なんなの?
今日の高橋さん、変だよ。
コウ兄も何も言わないし…
「どっちだ?」
「向こうだけど、本当に送ってくれるつもりなの?この時間なら…」
「歩いて帰るつもりなんだろ?商店街を出たら街灯の少ない夜道だから、お前の為に康太は遅くなるとタクシー呼んでたろ!そんな道、女1人で帰せるかよ」
「先週、歩いて帰ったから大丈夫なんだけど…」
何を話していいか分からないので、なんとか回避できないかと呟いてみたけど、スルーされる。
「今日は、赤い満月の夜らしいぞ。月を見ながら歩いて帰るっていうのも乙じゃないか。ほら、行くぞ」
うっ…
決定事項のように、どんどんと先へ歩いて行く高橋さんに言い返す言葉が見つからず、後ろからついて歩いていると、何故だか、彼はご機嫌の様子で鼻歌を歌っている。
「…小さな恋の歌」
ボソッと呟いた私に振り返った高橋さんは、満面の笑みを浮かべて鼻歌から声に出して歌い出した。
それは、ちょうど商店街を抜けたところで、月の明かりに照らされていた。