早熟夫婦〜本日、極甘社長の妻となりました〜

約一時間後、戻ってきた尚くんは、何事もなかったかのような顔で私たちに告げた。「ダンジョン、これまで通りに続けていいぞ」と。

あっさり元に戻った話に、私たちはぽかんと呆気に取られた。中でも一番驚いている鬼頭さんは、半信半疑な様子で腰を上げる。


「これまで通りでいい……って社長、なにをしたんです?」

「別に、なにもしていない。『コストを数パーセント下げたいですか? それとも集客を数百パーセント上げたいですか?』って聞いただけ」


なんでもないことのように口にされた言葉だが、鬼頭さんも他の皆も、はっとするのがわかった。

そっか……値引きをして安っぽいホームページを作るより、魅力的なものを作って多くのお客を集めたほうが、結果的にダンジョンにとってプラスになるのか。

なるほど、と納得していると、尚くんは私たちに凛々しい眼差しを向ける。


「俺たちの仕事は、クライアントの言いなりになることじゃない。クライアントの売上を拡大するために貢献する宣伝媒体を作ることだろ。立場はあくまで対等だ」


落ち着いた口調で、改めてデザインの仕事について諭す彼を、私たちはじっと見つめる。
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