早熟夫婦〜本日、極甘社長の妻となりました〜

「値引き交渉に応じればクオリティーは確実に下がるし、ネージュ・バリエの価値も、皆の制作意欲も下げかねない。もっと強気でいっていいんだ。俺たちはプロなんだから」


社長としての力強い言葉は、胸に響くものがある。ダンジョンのチーム以外の社員たちも、一旦手を止めて聞き入っていた。

尚くんは、立ち尽くす鬼頭さんに近づき、穏やかな笑みを浮かべる。


「『鬼頭さんの熱意を信じることにします』って言ってたよ。人を呼ぶ広告、頼んだぞ」


ポンポンと軽く肩を叩かれ、彼女の表情に安堵と感動が交じり合っていく。

ほんの少しだけ泣きそうな顔で、「ありがとうございます」と頭を下げる彼女を見て、私にも温かい気持ちが広がっていた。



終業時間を迎え、各々が挨拶をしてオフィスを出ていく。私も任された仕事は終わったので、帰り支度を整える。

ロッカーから荷物を取り出していると、「お疲れ様」と声をかけられた。隣にやってきたのは、少年みたいな可愛い笑顔を見せる冴木さんだ。


「お疲れ様です。冴木さんもお帰りですか？」

「うん、ダンジョンのほうも順調だしね。どうなるかと思ったけど、社長が説得してくれてよかったよ」

「はい。本当に」