早熟夫婦〜本日、極甘社長の妻となりました〜

「ダンジョンなら、いいものを作ってみせる自信があったので、その熱意で愛想の悪さもカバーできるんじゃないかと思いました。
だから今回、一生懸命作ったものをないがしろにされたショックももちろんありましたが、希望通りにしなければクライアントに見放されるかもしれない、という怖さも大きかったんです」


一気に心情を吐露した鬼頭さんは、ひとつため息をついた。

なんとなく、彼女は他人の目など気にしなさそうだと思っていたが、そんなことはなかったらしい。いたって普通の女性なのだ。

鬼頭さんもこんなふうに悩んでいたんだなと、親近感が増す。


「社長が言っていた、〝プロとしてのプライド〟を持たなければいけないことはわかっていたのに……。そんなくだらない私情を挟んでいたなんて、自分に嫌気が差しますよ」


辟易する、といった調子で吐き出した彼女は、お冷のコップに手を伸ばした。

その直後、「くだらなくないですよ」という穏やかな声がかけられた。

優しい笑みを浮かべた冴木さんが、向かい合う鬼頭さんを見つめている。


「鬼頭さんの気持ち、よくわかります。相手に嫌われたくないっていう思いは、きっと誰もが持っているものだし」