早熟夫婦〜本日、極甘社長の妻となりました〜
食事を終えた私たちは、長居せずに店を出た。熱帯夜であろうかというくらいの暑い空気に包まれるも、気分は清々しい。
鬼頭さんもだいぶスッキリとした様子だ。ビジネスバッグを肩にかけ、背筋をシャンと伸ばした姿勢で、私たちに軽く頭を下げる。
「今日はありがとうございました。元気、出ました」
「よかったです。明日からも、よろしくお願いします!」
明るく言うと、彼女もわずかに口角を上げて「こちらこそ」と返してくれた。
鬼頭さんの家は、駅に向かう私たちとは別方向なので、ここでお別れとなる。
去り際に、冴木さんと目が合った彼女はパッと顔を逸らし、眼鏡を押し上げつつぺこりと会釈した。
その頬がほんのり薄紅に色づいていることに気づき、私はピンと来た。もしかしたら鬼頭さんは、冴木さんのことを意識し始めたんじゃないか、と。
もしそうだとしたら、クールビューティーな女上司と、年下イケメンとの恋に……。これは胸キュン必至!
勝手な妄想を加速させ、含み笑いしてしまう。そんな怪しい私に冴木さんは気づく素振りもなく、去っていく鬼頭さんの後ろ姿を安心したように見送っている。