早熟夫婦〜本日、極甘社長の妻となりました〜
「鬼頭さん、立ち直ったみたいだね。キョウちゃんが誘い出してくれたおかげだ」

「いえ、冴木さんが相談に乗ってくれたおかげでもありますよ」


私はただきっかけを作っただけ。冴木さんが親身に話を聞き、温かい言葉をかけたことが、彼女にとって大きな助けになったに違いない。


「でも、こんなに話せたの初めてだし、誘ってよかったです。鬼頭さんが愛想のことで悩んでたのは意外でしたけど」


つい先ほどの彼女の話を思い返していると、冴木さんは「うん」とひとつ頷き、なんとなく意味深な笑みを浮かべる。


「自分に嘘がつけない、正直な人なんだよね。俺からしてみたら、ちょっと羨ましいよ」


……羨ましい?

そのひとことが少々引っかかり、隣に立つ彼を見上げる。ふわっとした厚めの前髪の下にある瞳は、どこか遠くを見つめているように感じた。

自分に正直な鬼頭さんが羨ましいということは、冴木さんは自分に嘘をついているということ?

ふいに、以前鬼頭さんが言っていた、『彼自身に問題があるように思えます』という言葉を思い出す。

そういえば、さっき三人で話していたときも一瞬表情が暗くなった気がしたし、本当になにか抱えているものがあるのかも……。
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