早熟夫婦〜本日、極甘社長の妻となりました〜
冴木さんは気だるげに、冷たさが混じる声で吐き出した。浮かべていた笑みも口元だけになり、虚無感のような色が濃くなっていく。
時折彼にかいま見えていた影が、今ははっきりと浮かび上がっている。〝笑顔を作るのが苦痛〟とは、どういうことだろう。
「……なにかあったんですか? 冴木さん、一瞬暗い顔をするときがあるから気になってたんです」
こちらを一瞥した彼は、いつもとは別人のような無表情で、「そんな顔してるときがあったんだ」と呟いた。そして、なにかを決めたように手すりから身体を離す。
「ちょっと重い話してもいい?」
その前置きに若干身構えてしまうも、彼の事情は気になるし、心配でもあるので、「はい」と頷いた。
丸いテーブルに移動して、お互いに店内を背にして座り、冴木さんはカクテルをひと口飲んでから話し始める。
「俺、養子なんだ。本当の親は、俺に愛情を注げなくなって、六歳のときに子供がいない親戚の家に引き取られた」
単刀直入に切り出されたのは切ない家庭環境の話で、私は息を呑む。
彼の性格からして、穏やかでいい家庭で育ったのだろうとなんとなく思っていたから、かなり意外だ。
時折彼にかいま見えていた影が、今ははっきりと浮かび上がっている。〝笑顔を作るのが苦痛〟とは、どういうことだろう。
「……なにかあったんですか? 冴木さん、一瞬暗い顔をするときがあるから気になってたんです」
こちらを一瞥した彼は、いつもとは別人のような無表情で、「そんな顔してるときがあったんだ」と呟いた。そして、なにかを決めたように手すりから身体を離す。
「ちょっと重い話してもいい?」
その前置きに若干身構えてしまうも、彼の事情は気になるし、心配でもあるので、「はい」と頷いた。
丸いテーブルに移動して、お互いに店内を背にして座り、冴木さんはカクテルをひと口飲んでから話し始める。
「俺、養子なんだ。本当の親は、俺に愛情を注げなくなって、六歳のときに子供がいない親戚の家に引き取られた」
単刀直入に切り出されたのは切ない家庭環境の話で、私は息を呑む。
彼の性格からして、穏やかでいい家庭で育ったのだろうとなんとなく思っていたから、かなり意外だ。