早熟夫婦〜本日、極甘社長の妻となりました〜

「伯父夫婦はいい人で、大切に育ててくれたよ。でも、〝もう嫌われたくない〟っていう思いが強くて、不満とか、言いたいことがあっても笑って従うようにしてた。
おかげで、人と接するときは常に笑顔を作る癖がついたんだ。本当の俺は、こんな愛想のいい人間じゃない」


冴木さんは伏し目がちになって、抑揚のない声で吐き捨てた。

いつもニコニコしている彼の裏側に、まさかこんな事情があったとは。

しかし、『常に笑顔なのが、少し気味悪い』と言っていた鬼頭さんだけは、彼の笑顔の不自然さに感づいていたのかもしれない。

この間の食事会で、『相手に嫌われたくないっていう思いは、きっと誰もが持っている』と彼女を諭し、その直後に暗い表情になったのも、こういう背景があるからだと納得した。


「だから、鬼頭さんの気持ちがよくわかるんですね」

「うん。ただ、相手の機嫌をとるために無理やりにでも愛想よくするか、しないか、その対応は正反対だけどね」


冴木さんは茶化すようにクスッと笑った。明るめの笑みが見られて、少々ホッとする。