早熟夫婦〜本日、極甘社長の妻となりました〜
でも、彼の気持ちには応えられない。私の尚くんへの想いが実るかどうかもわからないが、たとえ失恋しても、しばらくは誰も好きになれないだろう。

複雑な心境で、鬼頭さんが待つ席へ戻ろうとしたとき、ふとお手洗いに向かう通路の辺りにいる二人組が目に入った。

ひとりは、腕組みをして立つ尚くん。もうひとり、彼と向かい合って話しているのは、スレンダーで綺麗な女性だ。

ショートボブの髪に、大人っぽいパンツスタイルの彼女は、尚くんを見上げて色っぽい笑みを浮かべている。それを見た瞬間、胸の奥でドクンと重い音が響いた。

ネージュ・バリエの社員ではない彼女には見覚えがある。高校生の頃に、しかもほんの一瞬見かけただけなのに、なぜすぐに思い出せたんだろう。

尚くんとふたりで街を歩いていた、恋人らしきあの女性を──。

胸をノックされているような嫌な音がみるみる大きくなり、ざわざわと、不穏な波紋が広がっていく。


「なんで……」


ふたりを凝視したままぽつりと呟いたとき、ソファ席から泉さんの明るい声が投げかけられる。


「キョウちゃん、どうしたの? おいでよー」

「あ……すみません」


無意識に立ちすくんでいた私は、ふたりからぱっと顔を背け、慌てて元の席に座った。
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